363 レジにその正20面体を持って行く。 しょぼくれたジイさんが古本を読みながら座っていた。 「すいません、これいくらですか?」 その時、俺は見逃さなかった。ジイさんが古本から目線を上げ、正20面体を見た時の表情を。 驚愕、としか表現出来ないような表情を一瞬顔に浮かべ、すぐさま普通のジイさんの表情になった。 「あっ、あぁ…これね…えーっと、いくらだったかな。ちょ、ちょっと待っててくれる?」 そう言うとジイさんは、奥の部屋(おそらく自宅兼)に入っていった。 奥さんらしき老女と何か言い争っているのが断片的に聞こえた。 やがて、ジイさんが1枚の黄ばんだ紙切れを持ってきた。 「それはね、いわゆる玩具の1つでね、リンフォンって名前で。この説明書に詳しい事が書いてあるんだけど」 ジイさんがそう言って、黄ばんだ汚らしい紙を広げた。随分と古いものらしい。 RINFONE2015/06/26 05:58
364 紙には例の正20面体の絵に「RINFONE(リンフォン)」と書かれており、それが「熊」→「鷹」→「魚」に変形する経緯が絵で描かれていた。 わけの分からない言語も添えてあった。 ジイさんが言うにはラテン語と英語で書かれているらしい。 「この様に、この置物が色んな動物に変形出来るんだよ。まず、リンフォンを両手で包み込み、おにぎりを握るように撫で回してごらん」 彼女は言われるがままに、リンフォンを両手で包み、握る様に撫で回した。 すると、「カチッ」と言う音がして、正20面体の面の1部が隆起したのだ。 「わっ、すご〜い」 「その出っ張った物を回して見たり、もっと上に引き上げたりしてごらん」 ジイさんに言われるとおりに彼女がすると、今度は別の1面が陥没した。 RINFONE2015/06/26 05:59
365 「すご〜い!パズルみたいなもんですね!ユウ(←俺の敬称)もやってみたら」 この仕組みを言葉で説明するのは凄く難しいのだが、「トランスフォーマー」と言う玩具をご存知だろうか? カセットテープがロボットに変形したり、拳銃やトラックがロボットに…と言う昔流行った玩具だ。 このリンフォンも、正20面体のどこかを押したり回したりすると、熊や鷹、魚などの色々な動物に変形する、と想像してもらいたい。 もはや、彼女はリンフォンに興味深々だった。俺でさえ凄い玩具だと思った。 「あの…それでおいくらなんでしょうか?」 彼女がおそるおそる聞くと、 「それねぇ、結構古いものなんだよね…でも、私らも置いてある事すら忘れてた物だし…よし、特別に1万でどうだろう? ネットなんかに出したら好きな人は数十万でも買うと思うんだけど」 そこは値切り上手の彼女の事だ。 結局は6500円にまでまけてもらい、ホクホク顔で店を出た。 次の日は月曜日だったので、一緒にレストランで晩飯を食べ終わったら、お互いすぐ帰宅した。 RINFONE2015/06/26 06:00
366 月曜日。 仕事が終わって家に帰り着いたら、彼女から電話があった。 「ユウくん、あれ凄いよ、リンフォン。ほんとパズルって感じで、動物の形になってくの。仕事中もそればっかり頭にあって、手につかない感じで。マジで下手なTVゲームより面白い」 と一方的に興奮しながら彼女は喋っていた。 電話を切った後、写メールが来た。 リンフォンを握っている彼女の両手が移り、リンフォンから突き出ている、熊の頭部のような物と足が2本見えた。 俺は、良く出来てるなぁと感心し、その様な感想をメールで送り、やがてその日は寝た。 RINFONE2015/06/26 06:05
367 火曜日。 仕事の帰り道を車で移動していると、彼女からメールが。 「マジで面白い。昨日徹夜でリンフォンいじってたら、とうとう熊が出来た。見にきてよ」 と言う風な内容だった。 俺は苦笑しながらも、車の進路を彼女の家へと向けた。 「なぁ、徹夜したって言ってたけど、仕事には行ったの?」 着くなり俺がそう聞くと、 「行った行った。でも、おかげでコーヒー飲み過ぎて気持ち悪くなったけど」 と彼女が答えた。 テーブルの上には、4つ足で少し首を上げた、熊の形になったリンフォンがあった。 「おぉっ、マジ凄くないこれ?仕組みはどうやって出来てんだろ」 「凄いでしょう?ほんとハマるこれ。次はこの熊から鷹になるはずなんだよね。早速やろうかなと思って」 「おいおい、流石に今日は徹夜とかするなよ。明日でいいじゃん」 「それもそうだね」 と彼女は良い、簡単な手料理を2人で食べて、1回SEXして(←書く必要あるのか?寒かったらスマソ) その日は帰った。 ちなみに、言い忘れたが、リンフォンは大体ソフトボールくらいの大きさだ。 RINFONE2015/06/26 06:07
368 水曜日。 通勤帰りに、今度は俺からメールした。 「ちゃんと寝たか?その他もろもろ、あ〜だこ〜だ…」 すると 「昨日はちゃんと寝たよ!今から帰って続きが楽しみ」 と返事が返ってきた。 そして夜の11時くらいだったか。 俺がPS2に夢中になっていると、写メールが来た。 「鷹が出来たよ〜!ほんとリアル。これ造った人マジ天才じゃない?」 写メールを開くと、翼を広げた鷹の形をしたリンフォンが移してあった。 素人の俺から見ても精巧な造りだ。 今にも羽ばたきそうな鷹がそこにいた。 もちろん、玩具だしある程度は凸凹しているのだが。 それでも良く出来ていた。 「スゲー、後は魚のみじゃん。でも夢中になりすぎずにゆっくり造れよな〜」 と返信し、やがて眠った。 RINFONE2015/06/26 06:08
369 水曜日。 通勤帰りに、今度は俺からメールした。 「ちゃんと寝たか?その他もろもろ、あ〜だこ〜だ…」 すると 「昨日はちゃんと寝たよ!今から帰って続きが楽しみ」 と返事が返ってきた。 そして夜の11時くらいだったか。 俺がPS2に夢中になっていると、写メールが来た。 「鷹が出来たよ〜!ほんとリアル。これ造った人マジ天才じゃない?」 写メールを開くと、翼を広げた鷹の形をしたリンフォンが移してあった。 素人の俺から見ても精巧な造りだ。 今にも羽ばたきそうな鷹がそこにいた。 もちろん、玩具だしある程度は凸凹しているのだが。 それでも良く出来ていた。 「スゲー、後は魚のみじゃん。でも夢中になりすぎずにゆっくり造れよな〜」 と返信し、やがて眠った。 RINFONE2015/06/26 06:081
371 木曜の夜。 俺が風呂を上がると、携帯が鳴った。 彼女だ。 「ユウくん、さっき電話した?」 「いいや。どうした?」 「5分ほど前から、30秒感覚くらいで着信くるの。通話押しても、何か街の雑踏のザワザワみたいな、大勢の話し声みたいなのが聞こえて、すぐ切れるの。着信見たら、普通(番号表示される)か(非通知)か(公衆)とか出るよね?でもその着信見たら(彼方(かなた))って出るの。こんなの登録もしてないのに。気持ち悪くて」 「そうか…そっち行ったほうがいいか?」 「いや、今日は電源切って寝る」 「そっか、ま、何かの混線じゃない?あぁ、所でリンフォンどうなった?魚は」 「あぁ、あれもうすぐ出来るよ、終わったらユウくんにも貸してあげようか」 「うん、楽しみにしてるよ」 RINFONE2015/06/26 06:10