298 【小説】「愛の蹉跌」=第29回= 品川湾岸警察署の4階資料室。佐山治の公判記録に目を通していた大崎刑事。吉原エンペラーから押収した在籍姫のファイルを開き、呆然とする。岡野芙美江のエンペラーでの源氏名は、『弥生』であった。しかし、彼女だけ身分証明書コピーならびに誓約書が見当たらないのだ。そして、....何より決定的な「あるもの」がそこに綴じられていた。・・・・・(その翌日のこと)・・・・午前6時。留置場に勾留されている安羅木(やすらぎ)一郎は、身を起こした。 匿名さん2012/10/25 02:53
299 『ああ、今日もきつい取り調べか。死刑を待つだけの身だ。しょうがない。』 前科前歴がない安羅木にとって、身柄を拘束されての警察取調べの日々は想像を絶する過酷さであった。まさか、これほどきついとは思わなかった。仕事人間の大崎刑事は、毎日午前7時から7時半には登庁する。それですぐに取り調べ開始なんて日もある。それから夕方、夜までずっとだ。ずっと。だが?・・・今日は看守係が来ない。どうしたのであろう?もう少し横になってよう。もう疲れた。いっそのこと、ここで首を吊って自害してもいい。 匿名さん2012/10/25 02:53
300 結局その日の午前中、取調べは行われなかった。安羅木は、ただ々目を閉じて、今までの自分の人生を静かにふりかえっていた。安羅木(やすらぎ)一郎は、茨城県出身である。現在は、ベッドタウンとして都内通勤住民が多い取手市。ここが彼の故郷だ。彼の父親(安羅木太郎)は、小さな町工場を経営。母も従業員として工場経営を支えていた。彼には弟が1人いた。決して豊かではなかったが、幸せな少年時代だった。なぜなら、その当時の嫌な思い出が彼には無いからだ。 匿名さん2012/10/25 02:54
301 しかし、小学校4年生のある日、彼の運命は暗転する。日曜日だった。彼が友達と遊んで帰宅したのだが、自宅に両親の姿は無かった。安羅木は、しばらく家にいたが、不安になり、自宅敷地内の工場へと向かう。そして、作業場の大扉を開けたその時。彼の両親と幼い弟の変わり果てた姿がそこにあった。そう、首吊り自さつである。実は、安羅木の実家の工場は、オイルショック[昭和48年(1973年)] を境に受注が急減。経営危機に瀕していた。金策に走りまわる安羅木の父、太郎。しかし、頼みの信用金庫から追加融資を冷たく断られる。 匿名さん2012/10/25 02:54
302 そして、意気消沈し、千葉県松戸市の繁華街を歩いていた時、ある広告看板が太郎の目に入った。......‘樺小企業支援センター’.....お得な手形割引あります!メインバンクに断られた経営者様!あきらめないで!道は必ずあります!そんな貴方を我々は応援します!.....「ここに頼もうか。ん。資金繰りはもう限界だ。ここに頼もう。」‘道は必ずあります’・・・これが安羅木太郎に対するコロシ文句となった。が、実は、中小企業支援センターなる社名に反し、ここの実像は、いわゆる会社整理屋・暴利街金だったのである。 匿名さん2012/10/25 02:54
303 ‘道’は、道でも、会社再生への道では断じてない。それは、会社‘倒産’への地獄道であった。安羅木太郎と彼の町工場は、悪徳街金融の餌食となり、安羅木家は崩壊したのである。それから、安羅木は、親戚をたらいまわしにされていく。両親と弟を失い、筆舌に尽くしがたい苦労を散々味わってきた。成人してからも、社会の底辺で何とか踏ん張って生きてきた。そう、似ているであろう?誰と?岡野芙美江とである。安羅木一郎は、自分の「過去」に、芙美江の『過去』を重ね合わせた。そして、彼女を心から愛した。 匿名さん2012/10/25 02:55
304 と同時に、芙美江を地獄の底に突き落とした佐山治。彼がヤミ金業者であったこと。このことが、彼の実家を崩壊させた悪徳街金融と二重映しになったのだ。そして、安羅木の内心に深く眠っていた強烈な憎悪が、殺意の炎として燃え上がり爆発した。「親父とお袋。あと弟がいるあの世に早く行きたいよ。それだけだ。」 ・・・・・(その頃、大崎刑事は?)・・・・(大崎)「話を聞かせてくれて有難う。礼を言います。」大崎は、川崎堀の内のソープ街にいた。‘ムクムク倶楽部’という激安ソープ店をちょうど出るところであった。 匿名さん2012/10/25 02:55
305 オールバックで、四角い顔の店長が丁重に大崎に頭を下げる。『いえいえ刑事さん。とんでもない。こちらこそ。』(大崎)「あ、すみません。貴方のお名前なんでしたっけ?ど忘れしちゃった。」(ムクムク倶楽部店長)『はい。わたくし横尾といいます。』ん?横尾....そうだ、吉原エンペラーで店長をやっていた男。安羅木の元上司である。・・・・・・・・(続きは次回) 匿名さん2012/10/25 02:55
306 【小説】「愛の蹉跌」=第30回= その翌日の早朝。安羅木(やすらぎ)一郎は、手錠をかけられ看守に引っ張られながら品川湾岸警察署3階の取調室に入った。いつもの席に座る。大崎刑事と若い部下が1人。(大崎)「なあ安羅木。留置所生活はどうだ?きついだろ?」(安羅木)『・・・・』(大崎)「ぜんぜん食事を摂ってないと聞いたが。大丈夫か?」 おや?いったいどういう風の吹き回しだろう。普段の大崎は、それはもう怖い形相で、手厳しい質問を取り調べ開始時から矢継ぎ早にぶつけてくるというのに。 匿名さん2012/10/25 17:43
307 大崎は、財布から1000円取り出す。すると、それを部下の若い刑事に渡した。(大崎)「向かいの‘マクドネル’で朝飯買ってきてやれ。」(若刑事)「はい!警部」・・それから10数分の後、若刑事は、マクドネルの朝メニューセットを安羅木の目の前においた。ソーセージバーガー、フライドポテト。あとアップルパイだ。(大崎)「コーヒーでも飲もうか。おい、テレビつけろ。例のやつ安羅木に見せるんだ。」(若刑事)「はい!警部」・・若刑事は、DVDをセットしているようだ。 匿名さん2012/10/25 17:43