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白鳩の部屋(白・ω・鳩)-9
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今、この仮説の検証がコンピュータシミュレーションによって進められている。シミュレーションとは模擬実験という意味で、コンピュータシミュレーションでは、実際には実験できないことをコンピュータを使って実験する。巨大衝突説の検証では、コンピュータに重力や天体の物理法則をプログラムすることで、コンピュータの中に宇宙を再現し、月形成の実験をする。検証は二段階に分けて行われている。
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絶対智秋
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まずは巨大衝突、つまり地球と原始惑星の衝突の実験が行われた。さまざまな条件で地球と原始惑星を衝突させ、何が起きるかを調べる。実験の結果、火星ぐらいの原始惑星が、地球に対して四十五度ぐらいの角度で衝突した場合、月を形成するのに十分な質量の材料物質がまき散らされることが確かめられた。また、やはり原始惑星の核のほとんどは地球に合体してしまい、主に原始惑星の岩石成分だけが残って、月の材料になることもわかった。
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次に、巨大衝突によってまき散らされた月材料物質から、月が形成されるかどうかの実験が行われた。地球の周りに、円盤状に広がった岩石の粒子を配置し、そこから衝突、合体によって月が形成されるかどうかを調べるのだ。筆者らの実験により、巨大衝突でまき散らされた岩石の粒子からは、確かに月質量程度の衛星が一つ、形成されることがわかった。驚いたことに、月の形成にかかる時間は、一か月から一年という、天文学的にはとても短い時間であった。最短で見積もった場合、図らずも一月(時間)で一月(個数)ができるのである。また、生まれたばかりの月は、当初、地球半径の約四倍の所にあったこともわかった。距離でいえば現在の十五分の一、見た目でいえば今より二百倍以上も大きな月が、空に浮かんでいたことになる。誰も見るものはなかったが、さぞ壮大な眺めだったことだろう。
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デブイモ発狂中
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僕のおじさんは「ぐうちゃん」という。津田由起夫三十八歳。いそうろう。
僕の母親の弟だ。いつも母に怒られている。学生のころに外国のいろんな所を旅していたらしく、気づいたときには僕の家に住み着いていた。そして、長いこと「ぐうたら」しているから、いつのまにか「ぐうちゃん」というあだ名になってしまった。でも、ぐうちゃんは変わった人で、そう言われるとなんだかうれしそうだ。それを見て僕の母はまた怒る。怒るけど「これ、ぐうちゃんの好物。」なんて言いながら、ご飯の支度をしているから母もちょっと変わっている。
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僕の家は東京の西の郊外にあって、父の祖父が建てた。古い家だけれど、ぐうちゃんが「いそうろう」できる六畳間があって、そこでぐうちゃんは「ぐうたら」している。父は単身赴任で仙台にいて、週末に帰ってくる。ぐうちゃんがいると何か力仕事が必要になったときに安心だから、と言って、父はぐうちゃんのいそうろうを歓迎しているみたいだ。
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ぐうちゃんは、家にいるときはたいてい本を読んでいるか、唯一のタカラモノであるカメラの掃除、点検などをしている。全く「ぐうたら」ばかりでもなくて、たまに一週間ぐらい留守にするときもある。ぐうちゃんにきくと、そんなときは、全国を回って測量の仕事をしているという。一度、家に持って帰った測量の道具を見せてもらったけれど、すごく精密な望遠鏡という感じだった。レンズの中をのぞくと中にいっぱい目盛りが付いていて、ダイヤルでピントを合わせる。いかにもプロの人の道具みたいで格好いい。かといって、ぐうちゃんは、測量の専門家でもないらしい。僕の母は、ぐうちゃんのそういう落ち着かない仕事のしかたが気に入らないようだ。「ちゃんと就職して早く独立しなさい。そうして『いそうろう』から卒業しなさい。」といつも怒る。
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