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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

783

「わかった。やるだけのことはやってみようや」
三木の押しに福田は当惑気な表情をしながらも そう答えた。このあと部屋に入ってきた記者たちに向かって、福田は唇を曲げながら
「どうも幹事長は松野君らしい。総理はこれで突っ走るんじゃないか」
と話した。
三木は今度は大平の私邸に電話をかけた。
「松野幹事長でなんとかまとめてもらいたい。福田君は派内を説得してくれるそうだ。そして政調会長のポストは君の派から出してもらいたい」
「そうだな。幹事長は問題の人事で、松野君にはなかなか反対が強い。しかし派内で相談してみよう」
幹事長人事は最後まで難航を続けなければならなかった。それだけに各社の政治記者たちも 取材に飛び回っていた。ある記者は椎名副総裁の家を訪れた。
椎名に対して既に三木は
「副総裁を辞任していただきたい」
と申し入れていた。それを椎名は
「ご免こうむる。私は辞めない」
と拒否した一幕があった。
実をいえば、そのあたりから人事は既に難航の気配であった。そうした経緯があるだけに、椎名は皮肉な調子でこう答えた。
「三木にしても福田、大平にしても、みんないったい何をやっていることやら、さっぱり解らんな。

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傷病兵が寄ってたかって騒いでも、事態がよくなるわけがないじゃないか」

党本部では総務会が開かれるのに先立って、反主流の挙党協に属する総務たちが一室に勢揃いしていた。
「松野を幹事長に起用するとは一体何事か」
「大福が諒承したという噂が飛んでおるが絶対に認められんぞ」
「もう一度、大福にハッパをかけろ」
そういった不満の声が飛び交っていた。そうしたところに慌しく飛び込んできたのが、福田派の代表世話人である園田直だった。
「冗談じゃない。福田御大は勿論、福田派全体も松野幹事長は絶対反対だ」
それに煽られたような形で反三木派の総務の中で、旧田中派に属する江崎真澄、郡祐一たち六人も別室で協議し「反対」の結論を出した。
「どうにも三木は挙党体制を作る気はないようだ」
江崎は気色ばんだ表情でそういった。
このような状態では総務会を開いて松野幹事長を決定できる情況にはなかった。総務会は開かれないまま徒らに時間は過ぎていった。
幹事長をはじめ党三役をどうするかー について、三木が自民党本部の総裁室に灘尾総務会長を呼んだのは午後1時であった。
灘尾は深刻な顔つきで口を開いた。

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「総務会を開いて松野幹事長の諒承を得ようとしたが、福田、大平の両派、田中派などを中心に皆が反対なので、未だに開会できずにいる」
「僕のその案は福田、大平両君は承知しているはずなんだ。派内を説得する約束だ。この案で何とか押し通せないか」
三木は難しい表情になった。あとから入ってきた中曽根が
「それでは福田、大平の両氏を呼んだらどんなものですか」
と提案した。それで10分後に福田、大平がその場に姿を現した。二人の顔を見るのももどかし気に 三木はいった。
「挙党協側に反対の意見が強いようだが、ぜひ説得をしてほしい。朝の電話で 松野幹事長については派内を説得すると、二人ともいったじゃないか。君たち二人が承知すれば済むことじゃないのかね」
「とんでもない」
福田が口を尖らせるようにしていった。
「とても松野幹事長を認めるわけにはいかん。松野君の能力はよく解っとるが、今の党内情勢で松野幹事長をむりやり押し切れば大混乱になってしまう。挙党体制はできない」
「その通りだ。説得は極めて難しい」
と大平も福田に同調した。

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三木と福田、大平の間に問答が続けられたが、福田は
「議論しても時間がかかるだけだよ。とにかく別の案を考えてもらいたい」
そういいながら腰を浮かしかけた。灘尾が
「それではなお相談するとして、お二人とも別室で待っていていただきたい」
といった。福田、大平の姿が部屋から消えた後、灘尾は三木に向かって提案した。
「とにかく松野君に来てもらった方がいい」
党本部に現れた松野頼三政調会長は、三木、中曽根幹事長、灘尾総務会長の三人が揃っている総裁室に入る前に、別室にいる福田、大平のところに顔を見せた。
「いま総理に呼ばれましたが、まずあなたがたの意見を伺わねば何ともいえませんのでね」
福田は松野の視線を外しながら、切り口上でこういった。
「君、自発的に幹事長を辞退してはどんなものかね」
「私ではまずいというのならば幹事長を固辞しましょう。しかし自分も自民党の人間である以上、自分が幹事長を固辞した後、どうなるかという点をやはり聞いておきたい」
松野もまた切り口上になっていた。
「それは……だね」
福田は例によって眼を天井に向けたような表情で答えた。

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「今ここで大平君と話し合ってみたんだが、幹事長は大平君にやってもらったらどうか。そのあと大蔵大臣のポストが空く。そこに君に入ってもらう。これでどうかね」
松野は厳しい表情になって手を振った。
「いや総理の考えは、私を三役に入れることにあると思う。僕が三役から外れれば、いかに入閣したとしても党内的に総理を孤立に追い込んでしまう。自分は蔵相を引き受けるというわけにはいきませんよ」
松野ははっきりと三木擁護の態度を打ち出した。
ー僕が幹事長になって三木から福田への政権移譲構想を抱いていることがわからんのなら、意地でも三木を擁護する。
という気色ばんだものが松野の面上にありありと滲み出ていた。松野は席を立ち、三木たちのいる総裁室に向かった。総裁室に入るなり
「いま福田氏はこのようにいったんだが、僕は納得できない」
と福田の話を伝えた。
「なに、福田君は大平幹事長説を出した?……それはだめだ」
三木は決然としていい放った。
松野は再び福田、大平のいる部屋にとって返した。このような往復が二、三度もくり返されたものの結論は出なかった。
「こうなれば、みんなが揃って話し合いましょう」
と灘尾が提案した。

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この提案で福田、大平も総裁室に移った。時間は既に2時近くになっていた。この六者会談の席で松野は
「この際、せっかくの三木さんのお申し出ですが、私は幹事長を辞退したい。その代わり総理には大平幹事長という案をのんでいただきたい。私は総務会長を引き受けたいと思います。桜内君にはお気の毒だが政調会長を受けていただき、そして蔵相の後任には福田さん……というように考えました」
この松野の提案はかなり大胆なものではあった。だが福田が要望する大平幹事長を容れるとともに、三木の意向を容れて自分が三役の一つのポストを占めるという妥協案であった。即座に三木は反対した。
「それでは大がかりな変更になり過ぎるよ。組閣全般にかかわってくる」
「それならば……」
今度は中曽根が別の妥協案を出した。
「灘尾さんに幹事長をお願いしたらどうだろう。松野君には重要閣僚のポストに就いていただく。桜内君が総務会長、内田常雄君が政調会長……」
「いや、おれは絶対に幹事長などは引き受けないよ」
灘尾が表情を固くしてそういった。
「まあ、待ってくれたまえ」
三木は眉の間にしわをよせながら、手を横に振りこのようにいった。

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「松野君は私の考えている閣僚名簿にはない。松野君は三役にいてこそ意味がある。この基本線は、僕としては誰がどういおうと絶対に崩せない」
三木の語調は決然としていた。それに気圧されたように誰もが暫くは口を開かなかった。三木は続けてこのようにいった。
「僕としては松野、桜内、内田三君という三役の組み合わせは断じて譲れないところだ。だいたい三役人事は総裁の専管事項じゃないのか。君たちはそれを閣僚人事に引っかけて、私の閣僚名簿にまで手を入れようとするのか」
「松野、桜内、内田の三役を動かせない、とするならば……」
と中曽根がいった。
「桜内君 (中曽根派) を幹事長に回して松野君を総務会長にしたらいかがなものですか」
その途端に福田がいった。
「それじゃだめだよ。反三木陣営が政調会長というポストでは党内のバランスがとれん。挙党協の意向を無視するわけにはいかん」
「ということになると……」
と大平が口を挟んだ。
「まあ、三君の間で三役をやりくりするというんなら、幹事長をわが派の内田君にしたらどんなものだろう。これならば挙党協も収まるんじゃないか」
三木は暫くの間、考え込んでいた。

790

「まあ、党務はおろそかにするべきではないし、力を背景に人事を決めるべきでもない。しかし内田君が適任というのなら、私も今の大平君の案に賛成しよう。他の諸君はどうかね」
皆の顔を一人一人見回した。
「まあ、いいでしょう。やむを得ませんな」
と灘尾がいい、松野も不承不承ながら黙って頷いた。それを承けて三木は
「もう時間も切迫しているので、内田君を幹事長にして適当な人物を幹事長代理にしよう」
といった。その三木の裁断に対して、大平はまた
「しかし内田君本人には、まだ幹事長という話はしていない。むら (派閥) に帰って相談をしないと……」
と横槍を入れた。その大平に松野が食ってかかるように、こういった。
「それはだめだ。もう時間がない。とにかくここで決めようじゃないか」
その腹立ちまぎれの語調に、大平は一瞬驚いたようだった。このあと当の内田常雄が大平に呼ばれて幹事長のポストをいい渡された。
「私はとてもその任に堪えん。党のこともわからんし、国会対策のこともしたことはない」
内田はそういって固辞しかかった。それをさらに大平が説得した。

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また、この時すでに国会対策委員長に内定していた海部俊樹が内田のところに飛んで来て
「内田さん、ぜひ引き受けて下さい。国会対策は私が責任をもって引き受けます。あなたに心配はかけません」
と熱心に口説いた。それで内田もようやく幹事長を承諾した。
内田幹事長、松野総務会長、桜内政調会長という三役人事が総務会で決定をみたときには時間は既に4年半を過ぎていた。
総務会が解散して各総務が散っていく時、エレベーターの中で
「まったく奇妙な人事になったものだなあ」
「これからどうなっていくのかね。わけがわかりゃせんよ」
そんな会話が飛び交った。誰がみても内田幹事長という人事は予想外であり、不可解であった。
内田は大平派の長老であり厚相、経済企画庁長官を務めたというキャリアはもっていたが、その人となりや人間性については党内はほとんど知る者がいなかった。

組閣工作は内田、松野、桜内の党三役が首相官邸に顔を揃えた5時半から始まった。
挙党体制を作る建前から福田の副総理・経企庁長官、大平の蔵相留任は問題なく決まった。
午後6時半に首相官邸に呼び込まれた福田も恬淡として留任を承知したし、大平もまた右にならった。

792

挙党協の中からはー
どうせ10月の党大会で三木を追い落とすのだ。この際、福田、大平が入閣するのはまずいのではないか。
そのような声もないわけではなかったが、せっかく保利、船田が三木との会談を通じて挙党体制を作ることを約束した手前、福田、大平が入閣を拒否したのでは世論上もまずいという配慮が先に立ったのである。
福田、大平のほか稲葉法相、永井文相、河本通産相、井出官房長官、坂田防衛庁長官、この七人の留任は三木が決めていたところであった。
新しく入閣する者については、反主流派はある意味では非協力的であった。
ーどうせ短い内閣だ。
という見方で福田、大平とも
ーお義理人事。
という感覚であった。つまりこれまで当選回数を重ねながら、派内事情などで入閣が大幅に遅れていた人たちを、このさい入閣させて義理を果たそうということであった。
福田派からは中馬辰猪 (松野と親しい) 、大平派から浦野幸男、天野公義といった人たちであった。
お義理を果たそうとする福田、大平と、自分好みの人材をとろうとする三木との間に、悶着が起きるのは避け難かった。
例えば三木は、早くから外相に大平派の小坂善太郎起用を考えていた。

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