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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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当の大平はこの席で一言も発することはなかった。例によって眼をつぶり、腕組みしながら派内の意見に耳を傾けていた。
ー総裁所信で妥協するためには 三木首相自ら両院議員総会に出て議員たちに誠心誠意訴える、という方法が必要かも知れない。
その大平の脳裏にひらめいた発想が やがて妥協への糸口になるのだが、それまでに大きな危機をくぐらなければならなかった。
暑い午後は不快な湿気を高めながら時を刻んで午後5時へと向かっていった。その間にも主流派、反主流派がそれぞれ慌しい動きを続けていた。
反主流派は 北方領土視察を理由に欠席届けを出した宮沢喜一外相を除いた14閣僚が、国会内の自民党総裁室で緊急会議を開いた。だが彼らのうち金丸信国土庁長官、竹下登建設相、安倍晋太郎農相たちは既に妥協の方向に傾いていた。総裁所信が出た時
「党分裂を避けるためには、この辺が納めどきではないか」
そう判断して密かに裏で調整に動いていたのである。しかし反主流派総体が騒然と息巻く中で総裁所信を呑むとは、まだ口に出せる状況ではなかった。
こうした中で党五役と挙党協代表五人との会談が自民党本部で持たれたのは午後4時過ぎであった。

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この部屋に入る時、記者団に質問を受けた中曽根は
「この会談の結果がどうであろうと閣議は午後5時から開く。臨時国会の件を決める方針は変わらない」
決然としていい放った。中曽根の表情には、ここまでくれば行きつくところまで行くよりほかない、という決意が色濃く出ていた。
それだけに挙党協の代表たちを前にして、中曽根は棒を呑んだもののように堅い表情で
「総裁所信を挙党協側に諒承してもらう以外、解決の方法はありませんな」
という台詞を吐いた。挙党協の園田たちは例のような反論をくり返したものの、そのいずれに対しても灘尾や松野は
「とにかく国務優先だ」
という短い返事で押し返した。結局はもの別れのまま終わった。
部屋の外に出てきた中曽根を、待ちうけていた記者団がどっと取り囲んだ。
「しょせん 平行線だよ」
と短い言葉を残して 足早にその場を去って行った。

臨時閣議が開かれたのは午後5時半であった。海部官房副長官が
ー16日に臨時国会を召集する件。
を議題として簡単にそれを説明した。
これを承けて 三木はきつい語調でしゃべりはじめた。
「わが三木内閣は発足してすでに一年九か月になる。

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考えてみれば最も困難な時期にスタートした。経済の方も厳しかったが、これは福田副総理や大平蔵相の協力で持ち直すに至った。その後ロッキード事件が勃発し、ついには同志の逮捕という衝撃的なことにたち至った。しかし われわれは苦しみを分かち合ってきている。私も過去に三回、辞表を出して内閣を去った経験があるが、それは信念を通したことで後味の悪いものではなかった。従って今日の閣議では臨時国会召集について遠慮せずに発言してもらいたい。お断りしておくが今私には感情的なものは何もない」
冒頭から三木が自分の閣僚辞任の経験に触れたのは、反主流閣僚に対して
ー臨時国会召集に反対ならば そうしたらよろしい。
ー反対する以上は辞任してもらう。
という断固たる三木の決意の表現でもあった。
この三木の発言に対して真っ先に福田が発言した。
「臨時国会を開くと冒頭解散、野党との話し合い解散があるのではないかという不安感を持つ者が党内に少なくない。それが問題だと思う」
三木は今更何をいっているのかー といった調子で答えた。
「そのようなことよりも、この臨時国会は法案を通すことが目的なのだ。それが党員共通の認識だと信じている」

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「ということは総理は解散しないということなのか」
と福田はあくまで解散問題をポイントにおいて問い質した。
三木は決然と答えた。
「衆議院を解散しない、とはいい切れない。法案の審議がスムーズにいかない時は解散もやむを得ないかと思う。しかし あなた方が心配しているように、解散をするために臨時国会を開くのではない。解散権はやむを得ない時に使うものだと私は心得ている」
村上勇郵政相 (村上派→水田派) が三木と福田のやりとりの間に割って入った。
「総理は臨時国会で法案を成立させると仰有るが、これは党内のコンセンサスを得なければできないことだ。私は電電の値上げ法案というものを抱えている。が担当大臣として率直にいわせていただければ、参議院で保革が伯仲している状況では 私の力では成立させる自信がない。もし未成立のまま解散ということになれば国民に対して不誠実極まりない。ほかに財特法にせよ、国鉄値上げ法案にせよ、一本も通らなかったら昔なら総辞職もので、今でも野垂れ死にになる。だから法案が通る体制で臨時国会を開くべきなのだ。これは首相が真剣に、真っ裸になってやればできないことではない」

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村上がいう法案を通す体制というのは三木が辞任すれば、ということを指していた。その辞任を三木が真剣に考えるべきだと村上はいったのだ。それに対して三木は きつい語調でいい返した。
「私はそのようには考えていない。政局には色々要素があるものだ。今は国務優先ということで全てを棚上げして協力をしてほしい。その協力とは つまり臨時国会を16日に召集することだ」
「総理、臨時国会召集は どういうわけで16日になったのですか」
と今度は福田一自治相 (船田派) が噛みついた。
「まず総理が閣僚に協力してほしい。党内の説得をしてほしい、ということから党五役と挙党協とが話し合いをした。どの道 平行線ではあるが人間には感情があり、二週間かかることでも『わかった』ということになれば一週間でもやれるものだ。ところが このままでは法案は通らず解散ということになる。一体 総理はどれだけ党員と話し合ったか。あなたは少しもやっていないではありませんか」
三木はむっとした表情になった。
「挙党協と党五役との話し合いは何回かやったはずだ」
「そうはいうが首相自身が最後まで努力しない限り、あなたの意思は大多数の党員に通らない。

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失礼なことをいうようだが、党員はあなたに不信感をもっている。挙党協の人たちも その不信感を払拭するために総理自ら乗り出すべきだといっている。この間の両院議員総会が果たして正式のものかどうか、あなた方の中には議論があると聞いているが、それは別として議員総会に首相が出席をして、心情を吐露することが必要ではないか。それをやらないで、ただ協力してくれ、話し合ってくれといっても無理です。私自身はかつて、悪口をいわれながらも公選法改正、政治資金規正法改正など、三木内閣のために努めてきた。その私が いま臨時国会召集を決めることは三木内閣のためにならないと判断している。慌てて16日に召集しなくても、さらに数日の間、納得のできる手順を踏んでいくべきだ。それなしに いきなり今日、召集決定をこの閣議にかけられても、私たちは納得できない。この決定は延ばしてもらいたい」
この福田一の発言を、三木はあっさりとかわした。
「君には公選法や政治資金規正法の改正ではお世話になった。その協力を感謝しているよ。しかしだね、臨時国会は初め8月26日に開こうと私は考えた。党五役もそのために一所懸命やってきた。

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しかし挙党協側の保利さんに二度も断られている。それ以来 臨時国会を早く開きたいと努力をし時間もかけてきたつもりだ」
今度は長谷川峻労相 (旧石井派) が口を挟んだ。
「総裁所信は あなたが党内 党員に訴えているわけでしょう。それならば文章ではなく直接訴えるべきだ。そうすれば違う意見を持っている人も あなたの訴えで変わってくるのではないか。二回断ったという挙党協も現実には党五役との話し合いを始めた。時間はかかっても納得するまで話し合うべきではありませんか」
三木は更に強い語気で押し返した。
「いいかね、この法案 懸案を処理するためには親三木とか反三木とかはないはずだ。これは党として国民に対する責務なんだ。それを考えて挙党協が鉾をおさめ 党一本になって法案成立に全力を結集すればいいのではないか」
この三木に またしても福田自治相は執拗に食い下がった。
「失礼ですが紙切れ一枚では何ともならない。進退をかけて といった言葉があれば また違うはずだ。あなたは10月に党大会を開くということを所信の中でいっているが その真意は何なのか。あなたの進退を含めているというなら反主流派も納得する公算が強いと思います」

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議論が三木の進退問題にまで及ぶと、しまいには双方の感情が激発する。そう看て取った金丸信国土庁長官 (田中派) が口を挟んだ。
「総理。こういう情勢では今日決めるといっても無理だと思う。さらに五役と挙党協の話し合いも続け、一両日 国会召集の件の決定を待ってもらえませんか」
これに竹下登建設相 (田中派) が言葉を継いだ。
「挙党協も徒らに総裁所信を拒否するというのではなく、話し合いのテーブルにつくようになった。話し合いには時間はあまりかからないと思います。そのくらいの時間は貸してもらってよいのではありませんか」
小沢辰男環境庁長官 (田中派) も助言した。
「明日は土曜日、明後日は日曜日ということなのだから、その時間くらい臨時国会召集の件は待てませんか」
しかし三木は厳然として首を横に振った。
「皆さんの意見はよく解った。一旦休憩して また話し合いたい」
午後6時半であった。

7時40分を過ぎて再開された閣議では、同じ議論がむし返されて9時30分に至った。また休憩に入って三度目が開かれた時には時間はもう9時50分であった。
ここにまで至ると さすがに三木首相も緊張の度を昂めていた。

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「二つの選択、つまり国務と政局の処理は切り離してやる以外にない。私としては国務は時期を決定しなければならないと思うので、とにかくこの席上で臨時国会召集の件について署名を求めたい」
それまで中立の姿勢を保っていた坂田道太防衛庁長官 (無派閥) が軽く手を上げ発言を求めた。
「私は黙って聞いていたが、昨日と今日とでは情勢が だいぶ違ってきている。伺っていると反主流派の閣僚の人も段々と総理の考えに近くなったように見える。が、だからといって今 急に署名を求めれば、総理は孤立をする。現実には総裁所信が出てから強硬論も変わってきている。皆が召集にはあながち反対ではなく、13日を16日に延ばしたことで大体諒承をするに至っている。従ってここで拙速に召集を決定したのでは、ぶち毀しになってしまうのではなかろうか」
だが三木は、断固たる態度を変えなかった。
「せっかく私が総裁所信を出したのに、今日決めなければ提案の意味がない。それに反対するのは挑戦的、挑発的だ」
これには誰もが
ー三木という男はこうも頑固なのか。
と驚いた表情であった。
そこでまた15分ほど休憩に入った。

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この休憩の間に主流派、反主流派閣僚が別々にそれぞれ意見を交換するという状態であった。
再開された閣議でまず口を切ったのは、党籍も議席もない永井道雄文相であった。
「私は党の情勢に暗いので発言をさし控えてきたが、今まで伺ってきた話を私なりに集約すると、二つの点において共通事項があるように思える。国務優先の立場で閣内一致の気持ちを踏まえ、第一に16日召集というのには誰もがご異存がないようだ。第二に党に対し更に説得に努めるという共通の熱意が窺える。そこでもう少し話し合いに努める時間を首相として考えられ、支持、賛成を得られるように努力されたらどうか……」
三木はその永井の発言で不承不承このようにいった。
「16日召集ということは今日初めて出したことではあるが、法案成立など諸般の情勢から見て動かせないところだ。従ってこれについては私は断じて譲れない。だが今日それを決めるのが早急に過ぎるというのであれば、明日一杯時間をかけて努力してみたいと思う……」
この三木の発言に、反主流派閣僚はほっと息をつく表情になった。しかし三木はまた大胆なことをいってのけた。

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