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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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田中総理は椎名副総裁に政権を預けることを考えていたようである。保利先生の意中の人も椎名さんだった。だが私の頭の中には「保利暫定政権」という言葉が点滅していた。
11月3日、保利先生は東京の自宅から、私は山中湖の別荘からそれぞれゴルフ姿で御殿場にあった椎名副総裁の別荘に向かった。椎名さんの連絡役は田村元さんだった。椎名さんの別荘には記者が張り込んでいるので その裏手にあるリゾートマンションで落ち合う手はずだった。
会談は三時間にも及んだ。私と田村さんは別室にいたから本当のところは分からないが、椎名暫定構想は結局潰れる。そこで私は保利暫定で動き 田中派内の説得に走り回った。ところが保利先生の側近だった坪川信三さんは何もしない。私は
「保利を頼むと言っておきながら 自分はちっとも動いていないじゃないか。親分を総理にしたいというのに あんたは何をやった」と食ってかかった。
坪川さんは「オレは保利先生に絶対に動いてはならんと厳命されていた」とか何とかぶつぶつ言う。私は「先生が立場上 君ら動いてくれと言えるか。親分の心を思い 動くなと言われても動くのが側近であり政治家だ」と怒鳴り続けた。

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政局の雲脚は急速に慌しいものになっていった。各派に同志、友人をもつ竹下官房長官にはそれらの動向のほとんどが看て取れた。当面の長官のビジネスもさることながら 田中首相から
「各派にいろいろな動きがあるだろう。遠慮なく詳しく おれの耳に入れてくれ」といわれたその情報収集にも竹下はせわしなかった。また
― 首相の進退を誤らせてはならない。
そうした思いから 適切な政局の判断とアドバイスにも努めなければならなかった。
内閣改造の後― 三木、福田両派とも 田中の進退に関する測定はまちまちだった。
「今度の内閣は田中、大平、中曽根三派の結束強化体制そのものだ。田中は強行突破作戦で臨時国会を乗り切るのではないか」とみるものもあった。
だが三木、福田ともに
「いや、フォード来日後、辞任するかも知れん」というようにも読んだ。強行突破か辞任か― その双方に備えての体制をとりはじめていた。両派そろって
「田中が強行突破を図るならば 退陣に追い込む」
「しかし田中が自ら退陣した場合に備え 後継総裁確保の準備をする」という両面作戦だった。
そうした動きが竹下にはよく読めた。

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― これではフォード来日以前に田中退陣後の準備を固めておかないと 後が混乱をきたす。
竹下は憂慮した。
「早急に保利さん、椎名さんにお会いになるべきでしょう」と田中に進言した。
竹下の党情分析に聴き入りながら 田中はうなずいた。
田中が首相官邸に保利を招いたのは 15日午後1時半だった。
「改造の際はすっかり迷惑をかけた……」と田中は率直に詫びた。
「しかし おれが退いた後を考えると……大平、福田の激突は必至だ。ここはやはり椎名さんの暫定総理で行く以外に手はないと思う。そこであんたに もう一度そのための力を借りたいんだ」
保利はこの田中の意向を椎名に電話で伝えた。そのころ椎名は記者たちから
「内閣改造の際、総理が椎名提案を容れなかったんで仲違いになっとるんじゃありませんか」と訊かれた。
「なァに、あの時 わしは怒った振りをしてみせただけさ。でないと収まりがつかんかったからな」
椎名はさらっとしてそう答えた。
保利の訪問を受けた椎名は 田中の意向、保利の意見をじっくりと聞いた。最後に
「よくわかった。なんにしても党内円満に次期政権を作るという線で長老連中をまとめておこう」
そういって重い腰を上げた。

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その夜、椎名は赤坂の料亭に旧石井派の灘尾弘吉、衆議院議長の前尾繁三郎を招いた。この三人は ときにゲストを交え 月に一度、賢人会という会合をもっている。この席で椎名は 一歩前進した意見を吐いた。
「田中君は辞める……というふうに わしは見とるんだが、後の総裁、これは公選で決めてはまずいと思うな」というのがそれであった。灘尾が賛成した。
「福田、大平が必死になって闘えば どうせマスコミからは また金が飛んだ、金権政治だ、派閥対立だと叩かれる」
前尾も同感であった。
「どちらが勝っても党の信用は墜ちる。それに後でしこりが残る」
「そこで後継総裁は なんらかの形の話し合いで決めるべきだ」
椎名はここで話し合い方式を持ち出した。だが前尾や灘尾には疑問が残った。
「しかし話し合いで決着がつくかね。仮に長老会議で話し合うにしても 大平か福田かという結論が出るだろうか?」
「出ない場合には暫定総理総裁で行くさ」と椎名は答えた。
椎名には計算があった。
― 田中首相が退陣に当たって はじめから『暫定総裁として だれだれを指名する』といったところで 福田も大平も とても承知はすまい。

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そこで後継者問題は長老、実力者会議に委ねる。この会談で大平にも福田にも決まらない時、初めて暫定政権案を決定し 誰かを指名する。となれば大平も福田も反対はできまい。
というのであった。
椎名は意欲的に動いた。翌16日には霞ヶ関の東京クラブで参議院議長の河野謙三と二時間にわたって会談した。
二人の話は 田中の後継者選出は長老・実力者などの話し合いで決めること、話し合いがつかないことが予想されるので最終的には暫定総裁で行くことであった。河野は
「これ以外に方法はあるまい」といった。だがこう付け加えた。
「暫定政権の場合は あんたが最適任だね」
「さあどうかね」
椎名は苦笑した。

同日、田中金脈問題に対して集中審議を行なってきた参院決算委が、いわゆる田中ファミリーを証人として喚問することを決定した。これは田中その人にとっても ファミリー及び田中派にとっても衝撃であることは確かだった。
だが田中は耐え、あきらめの心理になっていた。
― フォード来日の行事が無事終わるまで……辛抱するんだ。これまでも おれの人生で何度となく泣きたいような 死にたいような辛いことがあった。そいつに耐えてきたおれだ……。

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そうはいっても その地位が総理大臣であるという厳然たる事実が今度の場合、心身深く食い込むような重量、重圧を与えていた。
― いままでにない辛さだ……。
田中は歯を食いしばって耐えに耐えた。田中はこの日、中曽根康弘通産相と要談した。この同年の少壮実力者に 田中はしんみりと
「おれのこと、政局の将来のことを話し合いたい……と思ってね」といった。
場所は総理大臣室だった。田中は
「いつか そう遠い将来でなく、君もこの部屋の主になる時があるだろう……」
そういいながら中曽根に椅子をすすめた。
「……いろいろと話したかったんだが時期が遅れちまった。が もう推察しているように……おれは決意しとる。といえば君は何もかもわかってくれると思うんだが……」
「わかりますよ。非常な心労もよくわかっています」
「心配なのは後のことだ。党を混乱に陥れたくない。それで椎名副総裁や保利君とも相談してきたんだが……率直にいって椎名さんに暫く後を預けるのが最上だと思っている……」
「その話は……洩れ聞いてはいますが 実は私も賛成です」
「有り難い」
「とにかく今 公選は避けるべきです。誰が勝利しても しこりが残って政局安定は期し難い」

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「そう思ってね。そう運ぶためにも 君の力を借りたいんだ」
「いいですとも。政局の舞台廻しは……大平さんは椎名暫定には与せんでしょうから 田中、中曽根連合でやりましょう」
中曽根は からっとした語調と態度でそういった。
このあと中曽根は椎名、保利と連絡をとりはじめた。
こうした椎名暫定への根廻しが着々と進められているのに対して 三木、福田派は警戒の眼を光らせていた。
「椎名副総裁が いやに活発に動きまわるじゃないか……」
「保利の動きも あの人のことだから陰に隠れてはいるが 要注意だ……」
そういった声が三福両派の中に上がりつつあった。両派の首脳も 椎名、保利が口が堅く 側近、知己にも真相を洩らさないので詳細は握れなかった。しかし三木は16日午後には三木派の世話人会の席上で いち早く反対意見を吐いた。
「首相、副総裁の周辺は 暫定総理総裁という構想で動きはじめたらしい。だが一部だけで密室工作を行なうような方法は 党近代化の上から賛成できない。それに暫定総理総裁というようなものでは この厳しい政局を乗り切れるものではない」

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その日、福田も記者会見で このように語った。
「フォード米大統領が帰国したら 党改革について多くの意見が爆発的に起こってくる。清新な党に作り替えるためには 暫定政権のようなものではとても無理だ。本格的な体制を作らねば難しい……」
三福両派だけでなく 大平派もまた暫定政権には反対だった。鈴木善幸総務会長が二階堂進幹事長にその意向を伝えた。
「暫定構想は わが派としても受け容れられないよ」
暫定総理総裁という構想には 有力後継者と目されライバル同士の関係にある福田、大平両派からの抵抗が強まった。
しかし中曽根は17日夕方、椎名をパレスホテルの一室に招いて
「椎名暫定を是が非でも実らせましょう」と激励した。この会談は三時間にわたった。中曽根は 彼の描いている政局の図式を説明した。
「ポスト田中をめぐって……結局は大平と福田の大激突です。田中派は椎名暫定を考えているが これが不可能ならば大平支持に回ります。福田には三木が与します。これが公選で争うとなれば 党は真二つに割れます。三木、福田には新党結成という考え方もあるほどです。党、結党以来の危機です。これを回避するためには椎名暫定です」

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「が、これについては皮肉なことに 対立する大平と三木、福田連合がそろって反対しとる。相当に強い。暫定政権構想がうまくいくという自信は わしにもない」
椎名はざっくばらんに打ち明けた。が、中曽根は語調に力をこめた。
「そこで……です。私の派も かつては中間派といわれました。副総裁の派、船田、水田、旧石井派と仲間でした。私の派とオール中間派が連合すれば80名近い勢力です。この勢力を以てすれば 大角対三福の調整が図れるはずじゃァありませんか」
さらに中曽根は力説した。
「もう一つ申し上げたい。仮に……です。大角、三福ともに暫定政権がどうしてもいかんというなら……」
「いかんというなら どうするね?」
「本格的な総理総裁を 話し合いで決めるようにすることです」
「話し合いにはわしも賛成だが 大平が納得するかね」
「それは充分に可能性がありますよ。というのは三木、福田両派には すでに話し合い方式で行けという声が起こりつつあります。三木派は党近代化という理論的な立場、看板から醜い公選反対というわけです。福田派は公選では大平に勝てないが 話し合いなら自分の方に政権がくるという勘定をしとります」

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「なるほど、田中派はどうだろう」
「総理は純粋な気持ちで混乱を避けたいと考えています。公選が党の危機を招くという認識をもっています。無理やり公選とはいわんでしょう」
「残るのは大平派だけだ」
「大平派ひとり公選論、話し合い反対……。他はみな話し合い。孤立します。包囲作戦です。大平はこれで 公選で突っ張っても勝算なしと折れてきます」
いちいちうなずきながら聞いていた椎名は
「いい考えだ」といった。
「しかしですよ。副総裁……」
中曽根は微笑を浮かべながらいった。
「この作戦を展開するヒーロー、将軍は あなたですよ」
椎名は苦笑した。
「角さんから頼まれ いま君にもいわれて……なんとなく わしが調整役みたいなことになっていくな」
「私は裏でお手伝いしますよ」
そういう中曽根に 椎名はとぼけた老人らしい仕草で
「有り難う」と お辞儀した。

フォード米大統領は予定通り11月18日午後3時半、専用機で羽田空港に到着した。国賓である。政府与党首脳が出迎えた。田中との会談を含めて滞日は22日までであった。
この日の朝、田中は臨時閣議前に木村俊夫外相を呼んで
「おれのことは……どうしたもんだろうか」と相談した。

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