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アウディ(総合)

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レクサスなんかより数段高いわバーカ(笑)

757

――何をやってるんだ、俺は。
看護師の美咲の「無理しないでくださいね」という声が頭の中でよみがえる。
その優しさに応えたいと思ったはずなのに、結局いつもの夜に逆戻りだ。

テーブルに広げたブランド物のアクセサリーを眺める。
「これさえあれば俺も輝ける」と信じて集めてきた品々。
だが今のしげちぃの瞳には、それらはただの冷たい鉄と革の塊にしか映らなかった。

しげちぃは深く煙草を吸い込み、天井を見つめながら呟いた。

「なあ、看護師さん…俺はどうしたらいいんだ」

煙は天井に消えていく。
その夜もしげちぃは眠れなかった。

758

第六章 偶然の再会

秋の夕暮れ、しげちぃは駅前のコンビニに立ち寄った。
ペプシゼロとタバコを買い、レジ袋を手に外へ出ると、見覚えのある横顔が視界に入った。

――看護師さん

紺色のカーディガンにジーンズ。白衣ではなく、日常の姿。
看護師の美咲が、買い物袋を抱えて歩いていた。

しげちぃの心臓は跳ねた。
声をかけるべきか、やめるべきか。
患者と看護師の関係を越えてしまうことに、彼は怖さを感じた。

だが、看護師の美咲の方が先に気づいた。
「あ、◯◯◯さん?」

笑顔。
病院で見るのと同じ、いや、それ以上に柔らかな表情。
夕暮れの街灯に照らされた彼女は、しげちぃには眩しすぎた。

759

「こんなところで会うなんて、偶然ですね」
「え、ええ…そうですね」
言葉が喉につかえる。
本当は「会えて嬉しい」と叫びたかったが、声にならなかった。

「これから帰るところですか?」
「はい。夜勤明けで、ちょっと買い物してたんです」

その言葉を聞きながら、しげちぃは胸の奥が熱くなるのを感じた。
彼女は自分と同じように、疲れて、日常を生きている。
病院の白衣の中にいるだけの存在ではなく、一人の人間なんだ。

「じゃあ、気をつけて帰ってくださいね」
「…あの」
思わず声を出していた。
看護師の美咲が立ち止まり、こちらを見る。
「えっと、その…いつもありがとうございます」
その瞬間、しげちぃは涙が出そうになった。
病院の中では決して聞けない、素の言葉。
その一言が、胸に深く刺さった。

彼女が人混みに消えていくまで、しげちぃはその場に立ち尽くしていた。
握りしめたペプシゼロのボトルが冷たくて、やけに現実を思い出させた。
――俺はまた、夢を見てしまったのかもしれない。
しかし同時に、胸の奥には確かに灯った。
「生きたい」と思える、小さな炎が。

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第七章 揺れる決意

あの夕暮れの偶然の再会から数日。
しげちぃの胸の中には、確かに変化があった。

ペプシゼロを片手に過ごす夜も、以前のような絶望感は薄れていた。
病院の廊下で美咲とすれ違うたびに、あの街灯の下の笑顔がよみがえった。
――俺もまだ変われるかもしれない。
そんな思いが、胸の奥に芽生えていた。

だが、変化は簡単ではなかった。

ある夜、眠れずに布団に横たわっていると、孤独の波が押し寄せてきた。
「どうせ俺なんか…」
頭の中で声が響く。
気づけばスマホを開き、ホスラブと風俗店のサイトをスクロールしていた。

――行くな。
――でも、このままじゃ眠れない。

心の中でせめぎ合いが続く。
そのとき、ふと看護師さんの声が浮かんだ。

しげちぃはスマホをテーブルに投げ出した。
そして、深く息を吐いた。

「もう…俺は逃げたくない」

そう呟き、タバコを一本取り出す。
煙を吐きながら、心に決意を刻んだ。

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――風俗に逃げるのはやめよう。
――せめて一度でいいから、看護師さんに胸を張れる自分になろう。

翌日、病院へ向かう足取りは少しだけ軽かった。
看護師さんに会えるというだけでなく、自分の中に小さな目標が生まれたからだ。

だがその道のりが簡単でないことを、しげちぃはまだ知らなかった。
彼の心を試すように、次の試練はすぐ近くまで迫っていた。

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第八章 封じられた瓶

「おい、しげちぃ!」

仕事帰りの人混みの中、背後から声をかけられた。
振り返ると、かつて酒場でつるんでいた古い知り合いの顔があった。
顔は赤らみ、手には缶ビール。

「久しぶりじゃねえか!お前、全然飲みに来ねえから心配してたんだぞ」

しげちぃは曖昧に笑った。
「…俺、もうやめたんだよ」
「はぁ?何言ってんだよ。人生楽しまなきゃ損だろ。ほら、一本だけ」

差し出された缶ビール。
冷たいアルミの感触が手に伝わる。
頭の奥に、かつての酩酊の記憶がよみがえる。
苦くて甘い液体が喉を通り、全てを忘れさせてくれた夜。
笑い声、喧騒、そして孤独の麻痺。

――飲めば楽になる。
――でも、戻ってしまう。

しげちぃの心臓は早鐘を打った。
その瞬間、ふと看護師さんの表情が浮かんだ。

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「◯◯◯さんががんばってるの、私もうれしいですから」

震える手で、彼は缶を押し返した。
「悪い。俺はもう飲まないんだ」

友人は鼻で笑った。
「つまんねえやつになったな。まあ、好きにしろよ」

立ち去る背中を見送りながら、しげちぃは深く息を吐いた。
足元がふらつく。飲んでいないのに、心は酔ったように揺れていた。

夜の風は冷たかったが、胸の奥には確かな熱が残っていた。
――俺は変わりたいんだ。
――あの人の前でだけは、誇れる自分でいたい。

それでも、アルコールの影は消えていなかった。
心の奥底で、「また飲もう」と囁く声が、静かに息を潜めていた。

764

深夜二時
眠れない夜を持て余したしげちぃは、アウディTTのドアを開けた。
エンジンをかけると、低い唸り声が静かな住宅街に響いた。

行くあてもない。
ただ、走りたかった。

街灯が続く国道を抜け、ネオンが消えた暗闇へと車を走らせる。
窓を開けると、夜風が頬を打ち、ペプシゼロの炭酸よりも鋭い刺激を与えた。

バックミラーには誰もいない。
前方のハイビームだけが、無人の道を白く切り裂いていた。

ハンドルを握る手に、ふとお気に入りの風俗嬢と看護師さんの顔が浮かぶ。
白衣の笑顔、裸の笑顔、両方が夕暮れに見た素の横顔。
胸が熱くなる。

――俺は何をしてるんだろう。
――この車に金をかけて、何を証明したかったんだ。

100万以上の改造費を注ぎ込んだアウディTT。
それなのに隣の席には誰もいない。
ブランド物を身に付けても、空っぽの夜を埋めることはできなかった。

765

国道を外れ、海沿いの道に出た。
波の音がかすかに聞こえる。
そこは道の駅。しげちぃは車を停め、煙草に火をつけた。

暗闇の中、潮風と煙が混ざる。
灰を落としながら、彼は小さく呟いた。

「看護師さん…いつか、隣にいてくれることなんて、あるんだろうか」

答えはもちろん返ってこない。
ただ、静かな海とエンジンの残り香だけが、彼の孤独を包んでいた。

それでも不思議と、心は少し軽かった。
行くあてもなく走り続けることが、今の自分にできる唯一の「生きている証」だった。

やがて夜明けが近づく。
水平線がわずかに白み始めたころ、しげちぃは再びエンジンをかけ、街へと戻っていった。

766

しげちぃはハンドルを強く握りしめ、アクセルを踏み込んだ。
深夜の国道。街の灯りは遠ざかり、ただテールランプの赤い残像だけが夜を切り裂いていく。

行き先なんてない。
ただ、逃げたかった。
孤独から、過去から、そしてどうしようもない自分から。

窓を開けると、夜風が叩きつける。
スピーカーからは古い音楽が鳴り、エンジンの唸りと混ざり合う。
誰もいない道で、しげちぃは心の奥で叫んでいた。

――俺はまだ終わっちゃいねえ!
――こんなところでくたばれるか!

アルコールに溺れて、風俗に逃げて、孤独に震えてきた。
それでも心のどこかで「変わりたい」と願っている自分がいる。
その証拠に、今夜もしげちぃは走っている。

看護師さんの笑顔が胸をよぎる。
あの白衣の姿。夕暮れに見た素顔。
彼女に会うたび、しげちぃは「生きてていい」と思えた。

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