314 ジントニックで乾杯をしながら正直に言う。 「ごめん。会ったこと覚えてないんだ」と。彼女は「ひどい」と言いながら、微笑む。クラブでは、珍しい話でもない。酒を飲みすぎた夜に会ったのだろう。俺はよいすぎると記憶をなくす。 その夜、結局、その子は俺の家にきた。部屋に入るなり勝手に冷蔵庫からミネラルウォーターを出した。つまりは俺の家にもきたことがあるということだ。そして、それはつまりは、セックスもしたことがあるということだ。 一度、性行為をした相手なのに、初めての感覚で服を脱がす。それはなかなか奇妙な体験で、そして、じれったい感覚だ。相手はこちらの手際を分かっているのにこちらは分かっていない。 行為が終わった後、聞いてみた。 「酔ってた時の俺と今日の酔っていない俺、どっちの方が良かった」 ベッドの上で彼女が微笑みながら言う。 「前、あなたは『ごめん。酔ってただから。酔ってない時の俺ともう一回してみて。ちゃんとできるから』と言ってたわよ」と。 黒木2024/06/26 02:061eZWzFDoo/Y