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ホスラブてめちゃ保守

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だよな

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私は池田の車のなかで、「岸さんの弱点は、いったいなんですか」と聞いたことがあった。
池田は、あっさりと答えた。
「それは岸さんのソツのないことだよ」
ソツがないということは、国民との対話にもソツがない、ひっかかりがない、とりつけない、いわば大衆のなかに根をおろしえない。そういう感じをズバリと言いあてていた。

12月27日、池田国務相、三木経企庁長官、灘尾文相(石井派)の反主流派三閣僚は、総理に辞意を申し入れるということになった。いよいよ辞意表明というとき、私は池田に言った。
「大臣、これは、どういうかたちで申し入れをするか、お考えになったほうがいいですよ」
「うん、俺も考えていたんだ、セレモニーを考えておかなきゃいかん」
結局、三人がん首をそろえて岸のところへ行き、三木に記者会見をしてもらう、という手はずにした。もっとも三木は経済企画庁長官であるだけに、予算案の編成が終わるまで見送ろうと、ちょっと途中でぐらついたが、池田はそれをおさえて、ふみきることになった。

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私は、岸総理の秘書官に電話をして用向きを通じると、南平台の私邸にきてくれということであった。池田は、「そりゃいかん、官邸でなきゃいかん」と言って、休日であったのにかかわらず、官邸のボイラーをたかせ、扉をあけさせて、そこで岸に会い、辞意を申し入れ、党の刷新をうながした。
池田はなぜこのようなたたかいをしたのだろうか。一口に言って、岸のやり方に不満だったのだ。警職法を唐突にだし、一挙に強行可決しようとして政局を混乱にみちびいた責任を、追及したかったのである。「民主主義はそんなもんじゃない。日本の国民はあなた方が心配するほどバカじゃない。あなたの考え方と私の考え方はちょっとちがうんじゃないですか」ということを言いたかったのである。岸と池田とでは、「民主主義」の理解がはっきり違うのだ。それは戦前派と前後派の断層でもあった。
考えてみれば、このたたかいは、いうことをきかなければ辞めるぞという、強引な、一本調子の、どちらかといえば幼稚なものであったが、池田派が火の玉になって党内闘争をおこなったということに、大きな意義があった。

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岸― 私の内閣は汚職、貧乏、暴力の「三悪追放」を打ち出したのですが、汚職と暴力をなくするためには、どうしても現行の警職法を改正する必要があると考えたんです。
― 警職法改正案の閣議決定前に党内および閣内で特別な調整ということはなかったのですか。
岸― 私自身としては、むしろ、こんなものを総理が根回しするほどのナニじゃなしに、国家公安委員会が準備工作すべきものであり、党内においても事前に問題にするほどのものとは考えませんでした。あのときは警察官の職務執行に関するもの、しかもその改正は、そうドラスティックな内容のものではないのだから、事務的に処理できるはずだったんです。
― 警職法改正については、あれほどの反発を予想しておりましたか。
岸― あれはナンですよ。われわれが予想しなかったような反応が出て来たんです。あることないことを口やかましい連中、特にマスコミが重大にこれを取り上げたんですよ。問題が大きくならないように、いろいろ慎重に処理する方法はもちろんあったとは思うのだが、多少われわれも、この警職法改正の問題を軽くみておった傾向があったかもしれない。

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それから十分あと、こんどは池田勇人国務相と、三木武夫経企庁長官、灘尾弘吉文相がそろって、乗り込んできた。群がる記者たちのなかで、三木はきっと唇を結んだきり、無言だった。池田が薄笑いを口辺に浮かべながらこういった。
「……もちろん、辞表提出です」
「慰留されたら?」と、記者のひとりが訊ねた。
「慰留は、受けません。五分で出てきます」
池田は、きっぱりと断言した。
総理大臣室で、赤城官房長官が立ち会って行なわれた、岸と三閣僚の話し合いは、五分では済まなかった。池田は、
「今夕、大野副総裁から、一月公選は譲れないと聞きましたが、そのとおりですか?」とまずそれを確認にかかった。
「そのとおりだ。公選ののち、人事刷新を行なうのが順序だと、私は思っている」と、岸は答えた。池田は、眉一本動かさない硬い表情で、
「それでは、われわれの考えを、お聞き届け下さらんわけだ。辞表を提出致します」と、それをポケットから出した。岸は押しとどめた。
「いや、君たちの考えを聞き届けるための前提として、くりあげ公選をしようというんだ」

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「が、あなたが再選を期したいのなら、まずわれわれの要望を容れて、人事を刷新し、すっきりするほうが党のためにもなるんではありませんか」
「ということも、わかるが、このさいは、ぼくのやり方を、諒承してくれんかね」
岸はそういったあと、灘尾文相に視線を移した。
「灘尾君……つい先日、社会党から文相不信任案が出た。わが党としては、それを否決し、君を信任したばかりのところだ。それをいま、ここで君がやめたら、社会党は拍手喝采だろう。ぼくとしても、君には随分と協力してきたつもりだが……辞任とは、ひどいじゃあないかね」
それに三木経企庁長官が強い反論を加えた。
「それは、政府の閣僚としての問題、こんどのは、政党としての問題だ。閣僚としては、われわれもあなたに協力してきた。が、党のことになると、あなたの行き方に反対しないわけにはいかん。政党内閣である以上、党が基本で、その基本において意見が不一致となれば、われわれはやめざるを得ない」
岸は、弁明に大わらわになった。
「理屈はとにかく、いまは予算の編成中だ。そのさなか、三人もの閣僚がやめるとなると、自民党としても、危機を招く……」

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「それは、あなたがですよ……」と池田が、反撃に出た。
「一月公選に、固執するからだ。三閣僚が辞任し、党が危機におちいる……というような危険をおかしてまで、なぜ、総裁の地位を保ちたいのです」
「そういうならばだ……予算編成中、閣僚を辞任するほうが、よほど筋がとおらない。ぼくは、君たちの辞表を受理するわけにはいかん」
岸も、いきりたっていた。三木が、
「われわれには、辞表を出す権利、辞任せねばならん責任がある」と応酬した。
「では、重大問題だから、もっとよく考えさせてくれ」
灘尾がはじめて口をひらいた。
「あなたにはまだ、われわれが辞表を出す……ということの重大さが、本当にわかってはいません。それを本当に認識しているなら、一月公選をやめるべきだ」
「一月公選は、党の決定だ」
岸は、腕を組んだまま、こんどは昂然と答えた。池田も怒気をふくんだ口調で反駁した。
「あれは、総務懇談会の諒解で、党の正式決定ではない。河野君のトリックだ」と、テーブルの上に置いた辞表を、岸のほうに押しやった。
「とにかく辞表は提出する。あとはそちらで、どうなりと処理を願います」
そういうなり、池田は立ち上がった。

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― 総裁選挙を一月に繰り上げた狙いはどこら辺にあったのですか。岸― 党大会は大体が一月に開かれるのが原則でした。石橋さんが病気で倒れたために、三月という変則的な時期に私の任期が始まるんです。本来の姿に戻したほうがいいんじゃないかというのが河野君たちの考え方であったと思うんです。
いろいろ説得したんだけれども、池田君と三木君は自分の派閥との関係もあってどうも上手くいかなかった。灘尾君だけは、どうしても辞任を思いとどまって欲しかったんです。私は文教政策というものを非常に重く考えておって、その担当者には灘尾君を措いて他にいないと思っていた。いまでもそう思っていますよ。とにかく当時、勤務評定、道徳教育、歴史教育など問題がいろいろあったものだから、特に灘尾君には辞任を思いとどまるよう随分説いたんだ。
― 池田さんと三木さんの辞任は諦めていたんですか。
岸― 諦めていた。池田君は吉田さんとの関係で安保条約改定には協力してくれるという見通しは持っていました。三木君はもうこれは思想が違うんだから、そもそも私の内閣に入れたのが間違っていたんです。だから、本人が辞めるといっても、ちっとも……。

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警職法のことで閣僚を辞めたのではない。警職法については岸が無茶をやるので警戒しなければとは思ったが、一応これは片付いた。しかし総裁公選は日付(三月)が決まっていたのだし、しかも対立候補もあり得たわけだ。皆が賛成するなら便宜的に日時を変えてもよいが、当時日程への反対が百五十名ぐらいおったし、岸は自分の都合で繰り上げた。つまり戦略的に繰り上げた方がベターであると彼は考えたのだろう。私は岸君に「自民党は君の党ではない。君が総裁ではあるがルールに従ってやってくれ」といった。政治は、揉めたら原点に帰ったらいいんだよ。彼は意地を張ってその原点に帰らなかった。あの時池田が一番強硬だった。「辞めよう、辞めよう。この内閣におれば歴史が汚れるよ」と池田はいっていた。12月25日の会談では岸は「予算編成の時期でもあるし、思いとどまってくれ」といった。僕は「それなら総裁公選は予定通り三月にやるべきだ。それなら思いとどまるよ」といったんだ。岸は「それはできない」というし、激しいやりとりだった。池田と岸が一番激しい大きな喧嘩をしたんです。

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局面がむつかしくなればなるほど、岸は粘り腰の強さをみせた。
三閣僚辞任という場面に、直面させられたいま、彼の頭脳を充たしているのは、
― いかにして政権の安泰をはかって、持続を期するか。という執拗なまでの一念であった。
― そのためには、このさい、反主流派との全面的な妥協もやむを得まい。
30日の午後5時過ぎ、首相官邸に石井光次郎と松村謙三(三木派)、益谷秀次(池田派)と、三長老を招いて、
「一月総裁公選を、白紙に戻す……」と反主流派の第一の条件をのんだ。第二の人事刷新の要求についても、「年明けそうそう、党役員を改選する」と諒承の返事を与えた。

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岸が、三長老につけた条件は、
「ただし、総裁公選の期日は、新執行部によって決めてもらう。これには、反主流派の諸君も、協力してもらいたい」ということであった。
反主流派は、なお四派連合勢力の刷新懇談会を存続させ、総裁公選にも対立候補を立てるという原則は、崩そうとはしなかったが、それでも党の再建に協力という約束を岸に与えた。これで当面、主流、反主流両派の激突は、回避できたわけであった。あとに残された課題は、新執行部の人選と、内閣改造の閣僚選考とであった。これについて、岸が川島幹事長、佐藤蔵相と、ひそかに協議したのは、その30日の夜であった。

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