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ホスラブてめちゃ保守

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だよな

365

「…………」
「計算のうまい岸君がだね、石橋君や石井君に負けたからといって損な分裂などするはずはない。石橋君にしても、かつての少数党の悲哀は嘗めつくしている。それをくり返すとは思えない。石井君だって、好んで苦労するような人物じゃあない」
河野は、鳩山に説き伏せられる結果になった。が、河野も、本当のところは、分裂などという事態がおころうとは考えていなかった。そのねらいは、
― 一大事だから、鳩山首相が収拾に乗り出せ。
といいたかったのだ。
「あなたのいうところは、いちいちもっともだ……」と答えたあと、
「が、公選の混乱を避けるために最後の努力をしてもらいたい」と、本論に入った。
「もちろん総裁公選は行なうとして、候補を一人にしぼったほうが、党は混乱に陥らずに済む。この名分からして、あなたが候補の一本化に乗り出すべきだ。これは、引退する総裁の最後の役目、というより義務だと思う……」
「そういう考え方もあるだろうが……」と、鳩山が断わりかけたのを、河野は強引にさえぎった。

366

「このことは、ぼくの最後の頼みだ。あなたが、引退してしまえば、ぼくはもうなにひとつ、あなたに頼むことはできない。いままであなたに甘えてきたぼくにとっては、寂しいことだ。だから、この最後のたのみ……候補者の一本化、その調整に、ぜひとも乗り出してもらいたい」
情にからんでくる河野を、鳩山も理詰めで拒むことはできなかった。もともと情にもろい人がらだった。
「それではだね……一本化することについて、党長老の意見を、ぼくが聞く……というぐらいなら、やってみてもいい」
しまいに、仕方なげに鳩山はそう答えた。そう答えながら、
― 河野君が、総裁候補を一人にしぼりたいという、その候補は、岸信介君だ。そこに、彼はもっていきたいのだ。
と、見抜いていた。
間もなく鳩山は、箱根に静養に出かけて、そのホテルに、党長老の参集を求めた。「総裁候補を一人にしぼること」について、意向を打診した。賛否両論まちまちであった。となることは、鳩山も予期していたところである。
「一本化は、むつかしい」と、鳩山は公表して、後継問題については、ふたたびもとの眠りのなかに戻っていった。

367

だいたい、選挙などをしなくてもすんだのだけれど、鳩山氏がずるいですね。ずるかったんですよ。後任者を指名することができなかった。指名するなら僕を指名しなければならない。けれども、僕に対してあまりいい感じを持っておらないわけじゃ。― 僕などごきげんをとりにしじゅう行けばいいけれども、めんどうだから行かなかった。そんなのはわかっておると思ったから行かなかった。こっちはやることはやっていますから。
三木武吉の話だが、岸氏にしたいという気持が先生に非常に動いていた。だから、鳩山一族の人、周囲の人は、そんなことはいえぬといってだいぶ反対したけれども、なんでもそんな気持だった。だからやめるときに、そうかといって岸氏を指名するわけにもいかぬしというジレンマに陥った。あいまいのうちに、何もいわずに引っ込んだ。
そんなことから公選になったですね。鳩山氏の心境は、聞いたわけではないけれども、どうもそうらしいですね。

368

昭和31年12月14日の総裁公選をめぐって名乗りをあげたのは、岸信介幹事長、石橋湛山通産相、石井光次郎総務会長の三人であった。
この公選では、至るところいままでの味方が敵に分かれ、これまでの敵が味方になり、過去の人脈の系譜が入り乱れた。
旧自由党は、石井光次郎を擁して池田勇人たち旧吉田派がまとまったものの、佐藤栄作の派はこれと袂を分かって実兄の岸支持にまわった。大野伴睦派は、緒方をはさんで密着していた石井との縁を切って、石橋支持へと走った。
旧民主党は、鳩山派が石橋湛山と河野一郎の二派に割れて、石橋は立候補、河野は岸支持に向かった。旧改進党系は、大麻唯男・重光葵派が岸支持、三木武夫派が石橋支持と、これもまた二分されることになった。
政治史的にいうならば、この総裁公選によって、自民党の派閥は再編成への途を歩みはじめたのである。逆に裏がえしていえば、そうなっていかざるを得ないほど、このときの総裁公選は大激戦だったのだ。

369

岸信介は、永田町のグランドホテルに選挙対策本部を設けた。
連日、川島正次郎を筆頭に、赤城宗徳、椎名悦三郎、福田赳夫たち参謀が陣どって、駈けまわる岸派議員や新聞記者たちの情報をもとに、徹底的な票読みをくり返した。衆参両院議員名簿に印を入れていくと同時に、采配をにぎる川島が、各議員の人脈をたどりながら、人びとを四方八方に走らせて、票集めに全力をあげた。
本来の岸派に加えて、佐藤栄作は橋本登美三郎、田中角栄、保利茂たちをひきいて、兄信介の下に参じた。
旧改進党系では、大麻唯男が宮沢胤男、中村庸一郎たちを引き連れ、岸支持の戦列に加わった。岸を買う― という大麻の決意は、日ソ交渉決裂で重光が事実上失脚したときに、すでに固まっていたことだ。重光は、もう大麻の行動になにひとこと、いおうとしなかった。
河野一郎が「岸君を支持する」とその態度を鮮明にしたのは11月10日に至ってであった。河野を岸支持に踏み切らせたものは、岸との友誼と、亡き三木武吉の遺志とであった。三木は「緒方のあとは岸君、命がけで推す」といった。そのとき自分も「おれも……だ」と応えた。そのとおりにすべきなのだ。

370

石橋湛山は、11月9日、遊説さきの大阪で立候補を宣言し、日比谷の日活国際会館九階に本部をかまえた。
参謀は石田博英である。勝負師という異名をとっていた。岸本命とみられるなかで、石橋を擁立したこと自体が石田の大博奕であった。
石田が石橋と接触をもったのは、まだ日経記者だったころ、社長の小汀利得の紹介であった。たちまち石橋の思想や人間に石田は惚れこんだ。
「いつか、石橋内閣をつくろうじゃありませんか」と、石田はあえて大言した。
鳩山引退が明らかにされたとき、
「さあ、石橋先生、年来の約束を果たしますぜ」と陣頭に立った。
「よろしい。石橋さんを推そう」といったのは旧知の三木武夫だった。三木は松村謙三、宇田耕一、井出一太郎、河本敏夫たちをひきいて石橋陣営に加わった。同じ旧改進党では北村徳太郎系の中曽根康弘、桜内義雄、園田直たちが石橋支持に参じた。
石田はさらに大野伴睦をも口説きおとした。
「大野さん、あんたは副総裁だ」
石田の凄腕に恐れをなした人たちが、「石田は、五人の代議士に通産大臣、八人の代議士に農林大臣を約束した」などといわれるくらい、大胆な多数派工作の手を打った。

371

石井光次郎は、赤坂にあった自分のオフィスを選挙事務所に当てた。
総参謀長は池田勇人である。このときの池田は、負けいくさを承知の上であった。吉田学校の伝統を守り抜くためには、緒方の跡目の石井を擁立する他、筋が立たないと考えたのである。旧吉田派はこれを機に、急速に池田勇人派へと再結集されていくが、また旧緒方― 石井派としては灘尾弘吉、塚田十一郎、山崎巌といった人々がいた。
石田博英は、これら石井支持派にも、大きな工作の網を投げかけた。池田に対して機敏にも、二、三位連合の話を持ち込んだのである。どのみち公選は、本命といわれた岸が第一位を占めることはほぼ確実だった。また過半数に達しないこともたしかであった。一、二位の決選投票になることは眼にみえていた。そこで池田に、「第一回投票で、石橋、石井いずれかが二位、三位であるにしても、決選のときには、三位のものが二位のものを推す……ことにしたい」と、話を持ち込んできたのである。

372

鳩山総理は、念願の訪ソを終えたのち、引退を決意したので、自民党としては、はじめて公選らしい公選で、総裁を選ぶことになった。立候補したのは石橋湛山君、岸信介君と私の三人であった。
公選は、昭和31年12月14日に決定されていたが、その少し前に、府中競馬場の近くの石橋正二郎君の別荘・鳩林荘で、パーティがあった。そこで石橋湛山君と一緒になって、二人でぶらぶら歩きながら話す機会があった。どちらからいい出したか覚えていないが、「今度の総裁選には岸君と私らと三人で出るわけだが、だれも過半数は取れそうもない。そうすると一位と二位の決選ということになる。決選になれば、君と僕のうち、最初の投票で上位になった者に、下位のほうが投票しようじゃないか。そうすれば多分勝つ。勝った者が総理になり負けた者が副総理になることにしようじゃないか」「それがよかろう」

373

― 石橋は二位にはなれる。決選で三位の石井支持票をより多くとれば、岸に逆転勝ちができる。
というのが、はじめからの石田の大博奕の決め手だったのだ。
池田は、そう躊躇することなく、これに応じた。
「正直にいって石井派は紐帯が弱い。決選段階で岸派に切り崩されるものも多いかと思う。が、ぼくの手駒たち……前尾繁三郎、大平正芳、鈴木善幸君たちは堅い。不充分なことになるおそれはあるが、二、三位連合けっこうだ……」
岸も遅れて、石井派に工作の手を伸ばした。岸みずから石井本人に会い「公選にさいしては、比較多数尊重の約束をしたい」と提案した。決選のとき、三位の石井は一位の岸を推せ― ということだった。
比較多数尊重そのものは論理にはかなっていたものの、石橋と二、三位連合の約束ができたあとではどうにもできなかった。岸は
― 最大にまずいことになった……。
と、渋面をこしらえた。川島正次郎は、こともなげに、「裏の手が、いくらでもある」といい、河野一郎は、怒った表情で、「石井派を切り崩せ」といい切った。

374

そのときの自民党大会は、大手町にある産経ホールでひらかれた。まず鳩山の総裁辞任の挨拶があって
「……諸君はこんごとも、わが保守勢力のために、全力をあげていただきたい……」
と、とめどなく涙を溢れ出させながら、半身不随の体を秘書官に支えられて壇上を去った。とどろくような拍手が送られた。
しかし― 鳩山の姿が消えたとき、大会の空気は、ひきつづいて行なわれる総裁公選への殺気をはらんだ。
第一回投票は、岸信介223票、石橋湛山151票、石井光次郎137票であった。
大会議長の砂田重政が、よくとおる声で
「……よって岸信介君、石橋湛山君との決選投票を行ないます」
といった。
石田によると― 決選投票の開票にあたって、集計の結果は岸251票、石橋250票である。ちっとやそっとで驚かない私も、この票数には思わずドキンとした。ところが選挙管理委員の井出一太郎君が、手をぶるぶるふるわせているではないか― ふるえる手の中に投票用紙がまだ握られている。私はハッとした。
「君、その手の中に何票あるのか」
「八票ある」
まったく息づまる一瞬だった。
胸中「しめたっ」とおもった。

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