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ホスラブてめちゃ保守

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だよな

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大野は、拳で涙をぬぐいながら、
「……身を殺して、仁をなす……だ。わしは降りる、石井君を推す……」といい切った。
時間は午前5時ちかくで、7月の空はもうすっかり白んでいた。その日― 13日は、党大会― 総裁公選の日であった。
それを河野は、強引に一日延期をさせた。大野支持勢力を、石井支持勢力と結合させるための時間を稼ごうとしたのだ。だが、それは結果的に失敗であった。その時間のあいだに、池田、岸、佐藤派は逆に党人連合を切り崩した。切り崩された代表は、川島正次郎であった。
「大野君が降りた以上、ぼくは大野君、河野君と行をともにする名分はない。石井君を推す義理はない」といって、岸の説得に応じ、池田支持に走ってしまったのだ。それにならうものが多かった。大野は、この川島の変節に、
「二度と、彼奴とは口をきかん」と激怒した。河野は、川島のこの行為を毒づいた。
「彼奴は、はじめから、こっちの大野支持者の名簿を、佐藤に渡していたんだ。それで、こちらは向こうに手のうちを読まれた。至るところ切り崩された。われわれはまるで、鏡をしょって、麻雀をしていたようなもんだ」

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公選が一日延びた夜、信濃町に帰っていると、大平がきた。その大平に、安岡正篤氏から電話がかかってきた。
「池田さんは、あす総裁になるだろうが、けっして高びしゃな態度にでてはいけない。自分の責任でこういう事態をまねいたと、できるだけ謙虚な態度でのぞまれるのがいいと思う」
大平は、「大臣、やっぱりあすは、低い姿勢でやってください」と言った。池田は「よし、わかった」と言う。われわれはもう勝った気持ちだった。
翌日、池田と一緒に車で日比谷公会堂へ行く。途中で池田がつぶやいた。
「連合軍は弱いよナ」
結局、池田、石井、藤山がたち、第一回はきまらない。決選投票は、池田302票、石井194票で、池田は第四代自民党総裁となった。
池田は、安岡氏に言われたとおりの態度であいさつをした。プリンス・ホテルへ帰って洋服をきかえているところへ、夫人から電話があった。新聞記者が、池田はなにをしているんだと聞く。
「いま奥さんと電話してます」
「なにをしゃべってるんですか」
「奥さんが『辞めるときが大切ですよ、辞めるときのことを考えてくださいね』と言ってます」
各社の囲み記事は、これをつたえた。

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― 総裁選挙が行なわれた日に、岸さんは暴漢に襲われるという椿事が起りましたが、あれはどういうことですか。
岸― 私を刺したのは荒巻とかいう男ですが、どういうことであんなことをしたのかよくわからない。あとで刑事が来て、何か心当りがありますかというから、全くわけがわからないと答えたことがある。
矢次― 私はたまたま日航のパーティが近くのホテルであって、遅れていったら、浅沼君が立っていて、私の顔をみるなり、人をかき分けて私の側にやって来、岸さんが刺されて病院に入ったぞ、と言うので、すぐ見舞いに行ったけど、急所をはずれていると聞いて、安心して帰ったんだ。

岸が太ももを刺されたと聞いて、大野伴睦は「ざまあみやがれ、あの法螺吹きめ!」と言ったという。刺したのは自民党院外団に属する男であった。岸が誓約を反古にして、院外団の先輩である大野を支持しなかったことに対する義憤とみられた。院外団とは幹部議員クラスの用心棒といった格で、よく言えば党のシンパ集団、悪く言えば政治ゴロだった。自民党が近代政党に脱皮していく昭和40年代には一斉に姿を消した。

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池田は、翌日さっそく、箱根に組閣の構想を練りにいくという。
「ああ、そうかな、そうだな」と私は思うだけだった。
18日の国会の首班指名までの三日間、組閣の構想を練るまえに、盟友桜田武は、池田内閣の最初の仕事が三井三池の石炭争議であることを見ぬき、大平を呼んで石田博英を登用すべきであると進言した。池田は即座にこの考えをとった。池田は石田を呼んで、労使双方の打診を指示した。
党役員、閣僚の名前は、公選のたたかいのなかからおのずときまっていった。勝利の日、家に帰ってから、池田は私に言った。
「官房長官は誰を使う?大平でつとまるかな?」
「大平さんしかいないでしょう」
大平はいちばん苦しい選挙戦の台所をひきうけて、りっぱにやってのけた。池田は「うん、そうだなあ」と言う。私はこれで、官房長官は大平だなと思った。翌日、池田が箱根に行ってしまったあと、大平から連絡があって、「ブーチャン、一緒に箱根に行こう」と言う。宏池会の事務所で待っていると、大平がくる。一緒に車に乗って、箱根にむかう。大平は、「夜霧の第二国道」という歌を口笛で吹いて、楽しそうだった。

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私は言わず語らずのうちに総理秘書官になってしまった。
箱根についてみると、池田は幹事長を誰にするか、苦慮している最中だった。池田派の同志山崎巌はどうか、と大平に相談する。
幹事長というのは、人事と党運営、資金をすべてひきうける役職である。一般に総裁は総理と一体ということになっているので、官邸のなかにはいってしまうと、行政機関の長としての働きをせざるをえない。そうするとどうしても党のことはお留守になる。腹の底まで信頼できるものを幹事長にしていなければ、総理大臣は党から浮いてしまう。
私は、池田がどうして山崎を考えたかよくわからなかったが、のちに知ったところによると、木戸内府が山崎を内務官僚の逸材として、折紙をつけていたことによるらしい。
箱根から帰ってきて、幹事長は山崎だという噂がちらほらもれはじめると、池田派のなかからつきあげがでてきた。大橋武夫が猛烈に反対しているという。結局、池田派の長老、益谷が幹事長になり、副幹事長に大橋がなった。二人のあいだで、すでにそういう話合いができていたものらしい。池田は憮然とした面持ちで言った。
「それじゃあ、山崎さんには自治大臣になってもらおう」

570

7月19日、池田はスピード組閣に成功した。

首相― 池田勇人、法相― 小島徹三、外相― 小坂善太郎、蔵相― 水田三喜男、文相・科学技術庁長官― 荒木万寿夫、厚相― 中山マサ、農相― 南条徳男、通産相― 石井光次郎、運輸相― 南好雄、郵政相― 鈴木善幸、労相― 石田博英、建設相・首都圏整備委員長― 橋本登美三郎、自治相・国家公安委員長― 山崎巌、行政管理庁長官― 高橋進太郎、北海道開発庁長官― 西川甚五郎、防衛庁長官― 江崎真澄、経済企画庁長官― 迫水久常、官房長官― 大平正芳、総務長官― 藤枝泉介
幹事長― 益谷秀次(池田派)、総務会長― 保利茂(佐藤派)、政調会長― 椎名悦三郎(岸派)

池田好みの気鋭閣僚が決定し、初めての婦人大臣も実現した。大野には副総理を打診したが「一党員として協力する」という返事で無役になった。安保を欠席した河野派、三木派からは一名の閣僚もとらなかった。

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岸内閣当時、池田勇人さんが夫人とともに田園調布の拙宅にみえたことがある。「郷里の先輩で

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池田さんは「どうしても政権を取りたい。ぜひ協力してくれ」と珍しく神妙におっしゃった。
安保改定が終わり、岸さんが退陣すると、池田さんの出番が巡ってきた。組閣の前夜、信濃町の池田邸に呼ばれた。池田さんは「君、不思議なもので、おれもいよいよ総理になれそうだ」と感慨深げである。「その時は大蔵大臣を頼むよ」と言うので「ありがとうございます」と礼を言って退出した。
ところが組閣当日、虎ノ門の宏池会事務所で待機していたのだが、ちっとも呼び出しがかからない。水田三喜男君が呼ばれて蔵相になったというから「こりゃ、ダメかな」と思い、官邸に電話を入れた。官房長官になった大平君が出てきて「君はフォーリン・ミニスターじゃ」と奇妙な内示を受け、思いもかけず外相に就任することになった。

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池田さん自身の出馬の決意は固く、その気持ちは日に日に強まっていった。ついに出馬を決断するが、その時掲げる政策として最初から所得倍増論があったわけではない。あの総裁選のテーマとしては必ずしもふさわしいものではなかった。しかしいざ戦おうとすると池田さんが自信を持って言えるテーマは所得倍増論しかなかったというのが実情だったろう。昭和35年の総裁選は虚々実々の駆け引きがあり、非常に激しい選挙になった。私も多数派工作にあたった。池田さんが総裁に選ばれた時には、うれしいというよりも、むしろ意外な感じがした。かつて池田さんは「貧乏人は麦を食え」と発言して批判を浴びた。「貧乏な時は麦を食え」と言えばいいものを、「貧乏人」と階級差別的なことを言うからよくないと思っていた。その池田さんがよくぞなれたなというのが実感だった。周りの意見をいれて池田さんは「低姿勢」に徹し、ゴルフや料亭通いをやめたりとイメージチェンジに努めた。私は「猫をかぶっているうちに本当に猫になってしまった」とよく評したものだ。

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池田が勝利をおさめたとき、だれよりもひどい敗北感を覚えたのは、河野一郎であった。候補者の座を降ろされた大野も、たたかって敗れた石井も、それは味わったにしても、この二人は、その過去をたどってみれば、同じ吉田茂の自由党で、池田とは本来からの政敵ではない。
そんな関係から、組閣にあたっても、池田は一から十まで、大野、石井を敵視はしなかった。閣僚のポストもふり当てている。
しかし河野一郎だけは、そうではない。河野は、吉田を倒す過程において、池田を敵とした。鳩山内閣を通じても敵であった。岸内閣になって、河野と池田との対立は、陰湿さをおびながら、より深刻なものとなった。
勝った池田は、敗れた河野派を、組閣にあたって徹底的に干しあげた。一部には、やがて池田も河野を起用するというものもなくはなかなったが― 。
どちかにしても、干されれば干されたで、助けられれば助けられたで、河野の敗北感は、みじめな屈辱感へと変わるだけであった。

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