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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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この田中の案は電話で金丸から保利に伝えられた。金丸は保利の腹心坪川と諮って
「田中提案について 今夜にでも椎名さんと保利さんに相談してもらおうじゃないか」ということになった。
椎名と保利の会談は その夜、赤坂の料亭「中川」の一室でもたれた。保利が田中提案を椎名に伝えると この老人は
「そうか……そうするのが一番か。というより それ以外に方法はあるまいな」といった。保利は彼なりの見通しを述べた。
「だが調査会でも公選、話し合い……いずれがよいという結論は出んでしょう。実力者会談でも大揉めで 決はとれんでしょうな。所詮、総理がいうように暫定政権……ということになりゃしませんか……」
「いずれにしても やってみようや」と椎名も肚をすえた。

この同じ時間、同じ「中川」で 岸信介が日商会頭の永野重雄と対していた。岸は
「福田君が政権の座につくのが当然 政界のしきたりなんだ」
それを大いに力説し強調していた。
「……石橋湛山君が病気で引退した時、そう32年2月のことだが 僕は外相として閣内にいた。前年12月の総裁公選で石橋君に七票差で敗れ 二位だった。

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石橋君が辞めると 僕とは反対の石橋主流派にいた石田博英官房長官、池田勇人蔵相、三木武夫幹事長もだね、本心では僕を推したくはなかったろうが しかし公選第二位ということで一致して僕を後継者に推した。党内には誰一人異論はなかった……」
岸はなおも説明を続けた。
「弟の栄作の場合も同じだった。あれは 39年の7月、現職総理の池田と闘って敗れたが 二位を占めた。四か月ほど後、知っての通り池田は病気で引退ということになった。
後継者として名乗りをあげたのは 栄作と藤山愛一郎君、河野一郎君だった。総理が病気で任期なかばの退陣なので 公選はしないことに党内は文句なしに意見一致した。
川島正次郎副総裁、三木武夫幹事長が党内の実力者、長老の意見を聴いて三人の中から適切な人物を選んで それを池田首相が指名することになった。党内の大部分は佐藤栄作を推す空気だった。そこで川島、三木両君が佐藤を推薦し 池田が指名……ということで栄作が総理総裁になった。
このように総裁が任期なかばで退陣……という場合には 前回公選で二位だった者が後を取る……というのがこれまでのしきたりだ。また党を混乱させないための党の良識でもある。

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その立場からすれば こんど田中退陣の後、公選で二位だった福田君が後継者になるというのは理の当然だ……。長老、実力者たちが この理屈、しきたり、良心をもって福田君を推すのが本当だよ」
岸はあくまで公選を避け 話し合いで福田に決めたいという思いであった。
前回二位の者が後を継ぐ― といっても石橋も池田も病気退陣、それも公選から数えて二か月しか経たないうちのことで 今度とは条件が違っていた。田中退陣は政治事情によるものである。福田が先の公選で二位だったといっても それはもう二年余も前のことだ。
としても岸は 石橋から自分、池田から佐藤への禅譲をあくまでタテにとって 田中から福田への政権授受を主張しているのであった。岸は永野に
「といったことで財界は今の政情を考えてだ、無事円満に福田政権ができるように援助してくれたまえ」といった。
岸の口説きと要望は 熱っぽくもあり 執拗でもあった。
永野との会談を終わった岸は玄関に出た。そこから車に乗ろうとしたところを新聞記者たちにつかまった。彼らは椎名、保利会談を張っていたのだ。岸に向かって
「岸さんも椎名、保利会談に立ち会われたんですか?」ときいた。

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「そんなものは知らん」
岸は はじめて椎名、保利の件を知って俄然 不機嫌になった。
「いまさら椎名、保利なンぞが出る幕じゃァない」
半分怒鳴るようにいって車の中に姿を消した。岸にしてみれば 椎名とはとうに縁が切れている。また椎名はアンチ福田である。保利も福田とは まずい状態にあると知っている。
― 椎名、保利に後継者の調整に動かれては 福田のマイナスだ。福田政権は難しい。
そんな判断から思わず悪態をついたのである。

そのころ三木は ポスト田中の政権のあり方について しきりと思い詰めていた。
― 田中が退陣した後は 田中とは理念、政策が反対か、ないしは異なった政権を作るべきだ。
それが三木の次期政権に対する絶対の信条であった。
― もし田中が亜流の暫定総理総裁を作る、あるいは われわれの話し合い方式の主張を無視し 公選を強行して亜流の大平政権を作る……その場合、自分は承服し難い。それを許容することは 議会生活三十年 政党人としての自分の良心が許さない。
― 自分としては脱党・新党に向かわざるを得まい……。
ある夜、三木は自邸で義弟の森美秀に 深刻な表情で尋ねた。

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「僕が脱党、新党の旗上げをしたら いったいわが派の何人が僕についてきてくれるだろうかね」
森は派内の情勢を分析して
「……十七、八名というところでしょうか」
と答えた。三木は厳しい顔つきでうなずいた。
このとき野党側では民社党の佐々木良作、公明党の矢野絢也、社会党の江田三郎たちが
― 田中が居坐っても また退陣したとしても 大平政権ができても 三木は脱党するかも知れない。
という判断で 新党について協議を始めていた。
これは三、四年前、佐藤内閣の時代、公明、民社、社会党江田派の間でしきりと相談されていた「野党再編成」の復活であった。当時は江田など
「これに自民党のニューライト派(三木派)を加えるのも可である」などといっていた。だがそのころは現実には三木派の脱党、新党参加は考えられなかった。しかし今度は
「三木派の脱党はあり得る」と想定した。
そこで公明、民社の筋から しきりと三木に働きかけを行なった。民社の佐々木が わざわざ三木邸を訪ねもした。
福田派の中でも
「もし田中があくまで暫定政権、大平政権を強行するなら 脱党、新党も辞せず」という動きが 決してないわけではなかった。

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「私は、フォード米大統領の来日というわが国にとって まさに歴史的な行事がつつがなく終了し 日米友好の礎が一段と固まったこの機会に、内閣総理大臣および自由民主党総裁を辞任する決意を致しました。政権を担当して以来、二年四か月余、私は決断と実行を肝に銘じ 日本の平和と安全、国民生活の安定と向上のため 全力投球を続けてきた。
しかるところ最近における政局の混迷が 少なからず私個人にかかわる問題に端を発していることについて 私は国政の最高責任者として政治的、道義的責任を痛感している。
一人の人間として考えるとき 私は裸一貫で郷里をたって以来 一日も休むことなく ただ真面目に働き続けてきた。顧みて いささかの感慨がある。
しかし私個人の問題で かりそめにも世間の誤解を招いたことは 公人として不明、不徳の致すところであり 耐え難い痛苦を覚える。いずれ真実を明らかにして 国民の理解を得て参りたい。
いま国の内外は緊急に解決すべき課題が山積している。政治には瞬時の停滞も許されない。私が厳粛にして かつ淡々と自らの進退を明らかにした所以もここにある。

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わが国の前途に思いをめぐらす時、私は夜 沛然として大地を打つ豪雨に心耳をすます思いである。
自由民主党は一日も早く新しい代表者を選出し 一致結束して難局を打開し 国民の付託に応えるべきである。
私も政治家の一人として国家国民のため さらに一層の献身を致す決意である」

これが田中首相の退陣声明であった。11月26日午前10時14分、首相官邸の会見室に姿をみせた竹下官房長官が それを代読した。これは全国に向けてテレビで放映された。
それを田中は首相執務室で 五人の秘書官と共にブラウン管の中に凝視していた。どうにもいい難く どうにも抑え難い感情が ぽろぽろと大粒の涙となって田中の眼から溢れ出た。
正午からは平河町の自民党本部九階ホールで両院議員総会が開かれた。壇上には椎名副総裁、二階堂、鈴木、山中たち三役をはじめ幹部が勢揃いした。
ここでは二階堂幹事長が田中総裁の退陣声明を代読した。これもまたテレビで全国に中継をされた。
本部から散って行く議員たち大部分の行き先は それぞれが属する派閥事務所だった。
― ポスト田中の総裁は?
それをめぐる政局の渦は 公然 歴然と激しくうねり 大きく巻きはじめた。

300

それにしても焦点は当面
― 話し合いか? 公選か?
という問題に絞られている。
この午後から二階堂幹事長は水田三喜男、福田赳夫、三木武夫に会い、翌27日には船田中、大平蔵相、中曽根通産相、保利茂、石井光次郎、佐藤栄作たちと会い、田中退陣の挨拶を兼ねて意見を聴くことに努めた。二階堂は
「究極的には椎名副総裁が調整に当たることになろうが 自分としても党内の意見を聴いて 誤りなきを期したい」と断わって 丹念にそれぞれの見解に耳を傾けた。
問題は大平、三木、福田それに中曽根であった。プリンスホテルの事務所で福田は二階堂にこのようにいった。
「今度の田中首相の勇断を無にしないで これを機に主流、反主流派のない挙党体制を作るべきだ。このためには派閥抗争を激化させ 後にシコリを残す総裁公選を避けること、話し合いで後継者を決めることが適切と思う。後継政権は国民に対する信頼の回復、国民待望のインフレの克服……この二つを重点にすることを考えなければならない……」
加えて福田は 大平派が田中派に呼びかけ公選の大会準備を進めようとしている行動を非難した。
「暫定総理総裁……という考え方も承服できない。

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問題を先にずらすだけだ。それにそんな仮の姿では 党の信頼回復もインフレの克服も不可能じゃないかね」
そう福田は付け加えた。二階堂は
「話し合い方式について具体的な案はありますか」と尋ねた。
「幅広く党内の意見を聴く。実力者も呼ぶ。その中から後継者が浮かんでくる。それが複数なら その人々が直接話し合って一人に絞ればいい……」
それが福田の回答であった。
三木は麹町の事務所に二階堂を迎えた。
「密室工作的な決め方は反対だよ。全党的に意見を聴いて 実力者たちが話し合う……それでなければいけない」
そういういい方で総裁公選にも暫定政権にも反対であることを明らかにした。
つづく中曽根は二階堂の挨拶、話が終わると
「事態は深刻だと思う」といいはじめた。
「公選など強行したら党は分裂をきたす惧れがあります。力より理性による解決……それが大事な時期です。後継者として誰が適切な条件を備えているか、事態乗り切りの力を持つ人は誰か……話し合いに徹して選ぶべきでしょう」
あとに大平、佐藤、椎名との会談を残したところで 二階堂は考え込んだ。
これまで会ってきた福田、三木、中曽根、保利、船田、石井みな強硬な話し合い論者であった。

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ひとり水田が首をかしげながら
「話し合いで決着がつかなければ公選、やむを得んかも知れんなァ……」といったきりである。このさき二階堂が会う予定にしている佐藤にしても椎名にしても 話し合い論をとっている。
― 公選論は大平ただ一人だ。この形勢では公選にもっていくこと自体 難しい。よく公選に持ち込んでも大平が勝てるとは即断できない。
二階堂は大蔵省に向かう車の中で腕を組んだ。大臣室に入ると二階堂は大平にその間のことを率直に話した。
「……君は公選論を唱えているが 公選になったら勝てるなどという読みは どうやら甘いようだ。中曽根君は徹底した話し合い論で 上州連合が進行中の様子だ。公選になったら あんた支持じゃない。福田派の中で保利さんは福田と冷えてはいても あんたには廻らん。椎名さんは反福田に間違いはないとしても大平支持とはいかない。船田、石井、水田派……三分の二は福田支持になる。票の割れ具合は あんたが勝てると思うほど簡単ではない」
この二階堂の苦言に大平は苦い表情になった。むきになってこういった。
「しかしやはり公選で決めるのが筋だ。三木君や福田君は党を割るなどといっとるが おれも覚悟の上だ」

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