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【ペン専用】SUPERNOVA(旧 超新星)★62

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ほどほどに

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まあ、三木君は最後まで反対するとして、前尾君はかならず妥協して、栄作のいうことをきくだろう。福田政権を認めるだろう……。となれば、たたかう相手は三木君一人、問題ではあるまい」
保利はそれが望ましいと認めながらも、まだまだ浮かない表情だった。
「しかし佐藤首相が四選を、自発的に断念しましょうか……。四選出馬の決意は相当にかたいようです」
保利は、たいへんに懐疑的なのだ。猜疑心が強過ぎるという批評も政界にはあるくらいである。
「まあ、保利君……」と、岸はことさら、表情をゆるめながら、こういった。
「私がじっくりと、栄作と話してみるさ。四選に出るべきでないことを得心させるよ」
保利は、まだしぶい面持ちだった。
― いつも岸はそういうが、岸の進言を佐藤首相が受け入れるものかどうか。
なお、保利の疑念は消えないのだ。
「それに……」と、保利はいった。
「反主流派の三木、前尾派は、反主流派の勢力を拡大していけば、佐藤首相は四選を断念するだろう……と見ております。四選断念をねらって攻勢を強めていく作戦です。これは侮れません」
岸、福田とも無言であった。岸は腕を組み、福田は上をにらんでいた。

860

保利ひとりがしゃべった。
「そういう形……つまり佐藤首相が反主流派から降ろされた形になると、福田政権の実現は、すんなりとはいかんという懸念があります」
保利の憂慮は、もっともなことであった。
― 追い詰められて辞任する佐藤が、いくらあとは福田に渡したいと、政権禅譲をいっても、三木、前尾がいうことをきくまい。けっきょく、公選の勝負になる。そこで福田が、はたして三木、前尾に勝てるか。
福田は、こう付け加えた。
「そのあとのことはだ……。総理の威令、おおいに行なわれている今日、その総理がだね、自分のあとはこうしたい……といえば、そうそう反対できるものはおらんはずだ」
福田は、楽観的であった。ひとえに禅譲の可能性を信じていたからである。
保利に、こんどは福田が、声をかけた。
「この件はだ……ひとつ岸さんにお任せしようじゃないか。君やぼくは、佐藤体制のなかの人間だ。総理に、引退か四選かを、訊ける立場にはない。また、どちらがいいかなど、いえる立場でもない」

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保利ひとりがしゃべった。
「そういう形……つまり佐藤首相が反主流派から降ろされた形になると、福田政権の実現は、すんなりとはいかんという懸念があります」
保利の憂慮は、もっともなことであった。
― 追い詰められて辞任する佐藤が、いくらあとは福田に渡したいと、政権禅譲をいっても、三木、前尾がいうことをきくまい。けっきょく、公選の勝負になる。そこで福田が、はたして三木、前尾に勝てるか。
福田は、こう付け加えた。
「そのあとのことはだ……。総理の威令、おおいに行なわれている今日、その総理がだね、自分のあとはこうしたい……といえば、そうそう反対できるものはおらんはずだ」
福田は、楽観的であった。ひとえに禅譲の可能性を信じていたからである。
保利に、こんどは福田が、声をかけた。
「この件はだ……ひとつ岸さんにお任せしようじゃないか。君やぼくは、佐藤体制のなかの人間だ。総理に、引退か四選かを、訊ける立場にはない。また、どちらがいいかなど、いえる立場でもない」

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福田赳夫という人は、もともとが、よくいえば、おおらかで悠揚としている。わるくいえば、のんきに過ぎるところがある。
― 佐藤総理は、かならず自分に政権を禅譲する。
と信じていた。そう信ずるうらには、やはり官僚的な発想があった。
― 自分は、岸、佐藤の嫡流。自分以外に佐藤が政権を譲る人間はいない。
― 最高の権力者である佐藤総理が、あとめは福田といいさえすれば、党内の大部分はそれにしたがうはずだ。
そういう考え方は、官界の年功序列システムに福田が馴らされていたせいかも知れない。政党というところが、究極的には、個々の実力と、多数決の世界であることが、福田には十分に消化できていなかったともいえよう。
としても、福田はその論法でしか、ポスト佐藤を考えようとはしなかった。
佐藤体制に反対している三木、前尾については
― 佐藤が後継者に推すはずはなく、問題ではない。
と、福田は歯牙にもかけなかった。
すでに総裁候補として実力をたくわえつつある田中角栄に対しても、福田の読みは、きわめて形式的、単純であった。
― 田中君は、学歴もない。そのニンではあるまい。それに若い。佐藤総理が命令すれば、出馬をやめ自分を推す。

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福田赳夫という人は、もともとが、よくいえば、おおらかで悠揚としている。わるくいえば、のんきに過ぎるところがある。
― 佐藤総理は、かならず自分に政権を禅譲する。
と信じていた。そう信ずるうらには、やはり官僚的な発想があった。
― 自分は、岸、佐藤の嫡流。自分以外に佐藤が政権を譲る人間はいない。
― 最高の権力者である佐藤総理が、あとめは福田といいさえすれば、党内の大部分はそれにしたがうはずだ。
そういう考え方は、官界の年功序列システムに福田が馴らされていたせいかも知れない。政党というところが、究極的には、個々の実力と、多数決の世界であることが、福田には十分に消化できていなかったともいえよう。
としても、福田はその論法でしか、ポスト佐藤を考えようとはしなかった。
佐藤体制に反対している三木、前尾については
― 佐藤が後継者に推すはずはなく、問題ではない。
と、福田は歯牙にもかけなかった。
すでに総裁候補として実力をたくわえつつある田中角栄に対しても、福田の読みは、きわめて形式的、単純であった。
― 田中君は、学歴もない。そのニンではあるまい。それに若い。佐藤総理が命令すれば、出馬をやめ自分を推す。

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もっとも、福田がそう考えるのも、あながち無理はなかった。派のなかに、岸の女婿である安倍晋太郎、岸子飼いの南条徳男、田中龍夫といった人びとがいて、たえず岸の口から「栄作は、あとを福田に譲る。栄作は断固としてそうするよ」と聞かされ、それを福田の耳に入れていたからだ。
ただ、福田派のなかでも、小川半次、塩川正十郎たち少数の人たちは「少なくとも、たたかい取る姿勢がなくては、取れるべき政権も取れない」と、苦言を呈していた。
鹿野彦吉も、その一人であった。鹿野は、赤坂で福田、岸、保利会談が行なわれた二、三日あと、紀尾井町の福田事務所に顔をみせた。
「佐藤総理からの禅譲……などを信じていると、とんだ目に会う」と、福田にきびしいこともいった。それでも、福田は、その楽観論を捨てなかった。
「なあに……佐藤総理は、三期でやめる。四選には出んよ。私への禅譲を、君も信じたまえ」
すべて、佐藤、岸を頼り切って、そうなると信じている様子を示した。
二、三日おいた夜、山口県出身政財界人の会合が、新橋の料亭でもたれた。二か月に一度ひらかれる定例の会合だった。佐藤首相も、岸信介も、たいていは出席する。

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もっとも、福田がそう考えるのも、あながち無理はなかった。派のなかに、岸の女婿である安倍晋太郎、岸子飼いの南条徳男、田中龍夫といった人びとがいて、たえず岸の口から「栄作は、あとを福田に譲る。栄作は断固としてそうするよ」と聞かされ、それを福田の耳に入れていたからだ。
ただ、福田派のなかでも、小川半次、塩川正十郎たち少数の人たちは「少なくとも、たたかい取る姿勢がなくては、取れるべき政権も取れない」と、苦言を呈していた。
鹿野彦吉も、その一人であった。鹿野は、赤坂で福田、岸、保利会談が行なわれた二、三日あと、紀尾井町の福田事務所に顔をみせた。
「佐藤総理からの禅譲……などを信じていると、とんだ目に会う」と、福田にきびしいこともいった。それでも、福田は、その楽観論を捨てなかった。
「なあに……佐藤総理は、三期でやめる。四選には出んよ。私への禅譲を、君も信じたまえ」
すべて、佐藤、岸を頼り切って、そうなると信じている様子を示した。
二、三日おいた夜、山口県出身政財界人の会合が、新橋の料亭でもたれた。二か月に一度ひらかれる定例の会合だった。佐藤首相も、岸信介も、たいていは出席する。

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それが終わったあと、べつに取らせた部屋で、この兄弟は向かい合った。
「お前の進退のことだが……」と、岸は切り出した。
佐藤は露骨に顔をしかめた。
― おれ自身のことは自分ひとりで決める。兄貴たりとも、とやかくいう筋ではない。
岸、佐藤兄弟の関係も、この数年のあいだに、ずいぶんと変わってきている。政治的には、岸がいかにも兄らしく、識見、貫禄ともに佐藤の上をいっていた。35年、岸が内閣を投げ出すまでそうであった。だが39年、佐藤が政権を得て総理大臣の椅子についてからは、力関係が変わってきた。おいそれと、佐藤は岸のいうことを聞かないようになっていた。それは、総理大臣というものの権力の強さが、そうさせたといっていい。
「わかっている。兄貴はおれに、三期でやめるべきだといいたいんだろう」
「そうだ……。その理由はだ……」
「わかっとるさ。四選までやると野垂れ死にする……ということだ。兄貴……おれの肚はとうに決まっている。いま、おれがだ、三期でやめるといっても、四選に出馬するといっても、秋の臨時国会はうるさいことになりかねん」
「お前のため、福田君のためにも、三期辞任がよい。四選出馬はいかん……」

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それが終わったあと、べつに取らせた部屋で、この兄弟は向かい合った。
「お前の進退のことだが……」と、岸は切り出した。
佐藤は露骨に顔をしかめた。
― おれ自身のことは自分ひとりで決める。兄貴たりとも、とやかくいう筋ではない。
岸、佐藤兄弟の関係も、この数年のあいだに、ずいぶんと変わってきている。政治的には、岸がいかにも兄らしく、識見、貫禄ともに佐藤の上をいっていた。35年、岸が内閣を投げ出すまでそうであった。だが39年、佐藤が政権を得て総理大臣の椅子についてからは、力関係が変わってきた。おいそれと、佐藤は岸のいうことを聞かないようになっていた。それは、総理大臣というものの権力の強さが、そうさせたといっていい。
「わかっている。兄貴はおれに、三期でやめるべきだといいたいんだろう」
「そうだ……。その理由はだ……」
「わかっとるさ。四選までやると野垂れ死にする……ということだ。兄貴……おれの肚はとうに決まっている。いま、おれがだ、三期でやめるといっても、四選に出馬するといっても、秋の臨時国会はうるさいことになりかねん」
「お前のため、福田君のためにも、三期辞任がよい。四選出馬はいかん……」

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まんこ

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