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【ペン専用】SUPERNOVA(旧 超新星)★62
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ほどほどに
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「今日の安定成長と称する財政のありかたでは、景気のおちこみは回復できない。こんごの経済発展も阻害される。政府は、公債発行も、最小限にとどめる方針だが、これもまた臆病に過ぎるのではないか」
「より大胆な公債政策をとって、よい意味での刺激を行なえば、景気回復は早い時期に可能である。それに加えて、高度成長をとることこそ、長期的にみるとき、経済の発展につながるものだ」
前尾の話は、得意とする経済問題に限られたが― ことそれになると、彼の反福田的な感情はいやがうえにも、燃えさかってくるのだった。
というのは― 35年7月に誕生をみた池田内閣は、高度成長計画を打ち出した。
経済界には「十年後に、日本の企業を国際競争力に耐え得るものにする」と呼びかけ、大衆には「十年後には所得を倍増する」とアピールしたもので、池田内閣の一枚看板だった。
ところが、第二次内閣で政調会長に就任した福田赳夫が、関西財界人の会合に臨んで「高度成長計画は、三、四年後には破綻をきたす」と、真っ向から批判したのだ。このときは、池田も色をなした。前尾、大平も同じだった。福田は「安定成長計画」をとって、池田に対抗してきた。
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「今日の安定成長と称する財政のありかたでは、景気のおちこみは回復できない。こんごの経済発展も阻害される。政府は、公債発行も、最小限にとどめる方針だが、これもまた臆病に過ぎるのではないか」
「より大胆な公債政策をとって、よい意味での刺激を行なえば、景気回復は早い時期に可能である。それに加えて、高度成長をとることこそ、長期的にみるとき、経済の発展につながるものだ」
前尾の話は、得意とする経済問題に限られたが― ことそれになると、彼の反福田的な感情はいやがうえにも、燃えさかってくるのだった。
というのは― 35年7月に誕生をみた池田内閣は、高度成長計画を打ち出した。
経済界には「十年後に、日本の企業を国際競争力に耐え得るものにする」と呼びかけ、大衆には「十年後には所得を倍増する」とアピールしたもので、池田内閣の一枚看板だった。
ところが、第二次内閣で政調会長に就任した福田赳夫が、関西財界人の会合に臨んで「高度成長計画は、三、四年後には破綻をきたす」と、真っ向から批判したのだ。このときは、池田も色をなした。前尾、大平も同じだった。福田は「安定成長計画」をとって、池田に対抗してきた。
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いまなお前尾の胸中には、福田への反感が渦巻いているのだ。
だいたい、大蔵省を昭電事件で退いた福田が、27年の選挙に打って出るとき、早くも、福田と池田とのあいだに、溝ができた。このとき池田は吉田内閣の蔵相だった。同じ大蔵省出身である福田に「自由党に入党して池田財政を助けてくれんか」といったところが、福田はこれをきっぱりと断わった。
「財政について考え方が違う」というのだった。
福田にしてみれば
― 自由党に入って公認になれば、選挙はらくになるが経済政策の見解が異なっているから妥協できん、それに、池田などの下風に立てるか。
そんな気概、度胸あってのことだったが、池田の側は面白くない。
その後、福田は岸信介の門に参じて鳩山一郎派と握手、民主党を結成し吉田内閣を退陣に追い込む側にまわった。いまの自民党が生まれて、福田、池田ともに同じ党の人間にはなったが、福田は岸、佐藤ラインに属し、池田派と対峙する形をとった。
池田内閣ができると、福田は倉石忠雄、有田喜一、小川半次たちとともに党風刷新連盟という別派をこしらえ「派閥を解消せよ」と池田や大野伴睦、河野一郎に迫りはじめた。
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いまなお前尾の胸中には、福田への反感が渦巻いているのだ。
だいたい、大蔵省を昭電事件で退いた福田が、27年の選挙に打って出るとき、早くも、福田と池田とのあいだに、溝ができた。このとき池田は吉田内閣の蔵相だった。同じ大蔵省出身である福田に「自由党に入党して池田財政を助けてくれんか」といったところが、福田はこれをきっぱりと断わった。
「財政について考え方が違う」というのだった。
福田にしてみれば
― 自由党に入って公認になれば、選挙はらくになるが経済政策の見解が異なっているから妥協できん、それに、池田などの下風に立てるか。
そんな気概、度胸あってのことだったが、池田の側は面白くない。
その後、福田は岸信介の門に参じて鳩山一郎派と握手、民主党を結成し吉田内閣を退陣に追い込む側にまわった。いまの自民党が生まれて、福田、池田ともに同じ党の人間にはなったが、福田は岸、佐藤ラインに属し、池田派と対峙する形をとった。
池田内閣ができると、福田は倉石忠雄、有田喜一、小川半次たちとともに党風刷新連盟という別派をこしらえ「派閥を解消せよ」と池田や大野伴睦、河野一郎に迫りはじめた。
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池田、前尾は福田の反主流派的行動に、むらむらと怒りを覚えながらも
「福田君が、派閥解消、党近代化をいうのなら、このさい党内に党近代化調査会をこしらえ、福田君を委員長にすえたら、どんなものか」と、一計をめぐらした。
― それなら福田も満足し、協力してくれよう。これで抱き込みができる。
しかし、これをも福田は拒否したのである。
39年7月公選で、池田三選に反対し佐藤を決起させた原動力も福田であった。
佐藤内閣になって蔵相の椅子に坐った福田は「高度成長計画は私の予言したとおり破綻をきたし、今日の不況を招いた」といい、安定成長計画をとりはじめた。それで、今日に至っている。前尾にしてみれば、反佐藤感よりも、反福田感のほうが、よほど強い。
三木武夫、前尾繁三郎たち反主流派が、それぞれに佐藤四選阻止をたかくかかげ、攻勢をはじめた夏の政局のなかで― しきりと、いらだっていたのは、官房長官の保利茂であった。ひそかに、福田赳夫蔵相と、それに岸信介と、三人だけの会合を求めた。おたがいが多忙な日程、時間を割いて、赤坂の料亭に集まったのは盛夏の暑さが、おそい時間まで続いたある晩であった。
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池田、前尾は福田の反主流派的行動に、むらむらと怒りを覚えながらも
「福田君が、派閥解消、党近代化をいうのなら、このさい党内に党近代化調査会をこしらえ、福田君を委員長にすえたら、どんなものか」と、一計をめぐらした。
― それなら福田も満足し、協力してくれよう。これで抱き込みができる。
しかし、これをも福田は拒否したのである。
39年7月公選で、池田三選に反対し佐藤を決起させた原動力も福田であった。
佐藤内閣になって蔵相の椅子に坐った福田は「高度成長計画は私の予言したとおり破綻をきたし、今日の不況を招いた」といい、安定成長計画をとりはじめた。それで、今日に至っている。前尾にしてみれば、反佐藤感よりも、反福田感のほうが、よほど強い。
三木武夫、前尾繁三郎たち反主流派が、それぞれに佐藤四選阻止をたかくかかげ、攻勢をはじめた夏の政局のなかで― しきりと、いらだっていたのは、官房長官の保利茂であった。ひそかに、福田赳夫蔵相と、それに岸信介と、三人だけの会合を求めた。おたがいが多忙な日程、時間を割いて、赤坂の料亭に集まったのは盛夏の暑さが、おそい時間まで続いたある晩であった。
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保利が待っているところに、肩を揺するような歩き方で福田がきて、それに岸が続いた。
「三人だけ……というのは、久しぶりじゃないか」と、岸はのんきそうなことをいいながら、座敷に入ってきた。保利は、深刻な表情で、それを受けとめた。
「これからは、いろいろ、ご相談申し上げねばならんことが、多くなります」
居住まいをただすようにして話を切り出した。
「どうやら、佐藤首相の四選出馬の肚は、揺ぎないように見受けられます」
佐藤四選がよいことか、好ましくないことか― この三人にとっては、微妙なところである。
― 佐藤主流派としては、佐藤が四選出馬をいえば、支持しないわけにはいかない。
― だが、佐藤が四選して、二年間政権を担当することになれば、それだけ福田政権の実現がおくれる。
という事情があるからだ。岸はこういった。
「しかし……私としては、早い機会に、栄作に四選を断念させるつもりだ。自発的引退をさせたい。その形ならば、後継者についての栄作の発言力は強いはずだ」
岸は、彼なりの観測と算盤をもっていた。
「その上で、あとは福田君に渡したいといえば、三木、前尾君も、考えるんではないかね。
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保利が待っているところに、肩を揺するような歩き方で福田がきて、それに岸が続いた。
「三人だけ……というのは、久しぶりじゃないか」と、岸はのんきそうなことをいいながら、座敷に入ってきた。保利は、深刻な表情で、それを受けとめた。
「これからは、いろいろ、ご相談申し上げねばならんことが、多くなります」
居住まいをただすようにして話を切り出した。
「どうやら、佐藤首相の四選出馬の肚は、揺ぎないように見受けられます」
佐藤四選がよいことか、好ましくないことか― この三人にとっては、微妙なところである。
― 佐藤主流派としては、佐藤が四選出馬をいえば、支持しないわけにはいかない。
― だが、佐藤が四選して、二年間政権を担当することになれば、それだけ福田政権の実現がおくれる。
という事情があるからだ。岸はこういった。
「しかし……私としては、早い機会に、栄作に四選を断念させるつもりだ。自発的引退をさせたい。その形ならば、後継者についての栄作の発言力は強いはずだ」
岸は、彼なりの観測と算盤をもっていた。
「その上で、あとは福田君に渡したいといえば、三木、前尾君も、考えるんではないかね。
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>>834
あの顔見てなんで喜べるのか不思議。激塩でも覚えてもらえたらいいのかな?Yが激塩なんて珍しいよね。一瞬笑顔が消える事はあっても苦笑いでも笑うじゃん。笑顔泥棒よりま○みは最悪って事?
858
まあ、三木君は最後まで反対するとして、前尾君はかならず妥協して、栄作のいうことをきくだろう。福田政権を認めるだろう……。となれば、たたかう相手は三木君一人、問題ではあるまい」
保利はそれが望ましいと認めながらも、まだまだ浮かない表情だった。
「しかし佐藤首相が四選を、自発的に断念しましょうか……。四選出馬の決意は相当にかたいようです」
保利は、たいへんに懐疑的なのだ。猜疑心が強過ぎるという批評も政界にはあるくらいである。
「まあ、保利君……」と、岸はことさら、表情をゆるめながら、こういった。
「私がじっくりと、栄作と話してみるさ。四選に出るべきでないことを得心させるよ」
保利は、まだしぶい面持ちだった。
― いつも岸はそういうが、岸の進言を佐藤首相が受け入れるものかどうか。
なお、保利の疑念は消えないのだ。
「それに……」と、保利はいった。
「反主流派の三木、前尾派は、反主流派の勢力を拡大していけば、佐藤首相は四選を断念するだろう……と見ております。四選断念をねらって攻勢を強めていく作戦です。これは侮れません」
岸、福田とも無言であった。岸は腕を組み、福田は上をにらんでいた。
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