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【ペン専用】SUPERNOVA(旧 超新星)★62
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ほどほどに
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>>878
ガチしかおめでとうって言ってないwww
881
まんこ
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半年ほどして、前尾、丹羽喬四郎、大平、鈴木の四人が相談して、次期公選には前尾を立てることが決まった。
昭和45年7月末、私が宏池会の下村勉強会に出ていたら、大平が私を別室に呼んで、つぎのように話してくれた。
「おれは宏池会の全員を握った、落ちこぼれは三、四名だ。若手はおれに『ハッキリしろ』といっている。前尾の周辺も、前尾に対し『公選への立候補はやめよ』と進言している、これが一つだ」
「もう一つは田中角栄の話だ。田中と会ったらこういった。『佐藤は後手、後手をふんで、何をやっているのか判らん、どうしようもないところへきている。政局は完全に硬直状態だ。おれの決意如何でどうでも動く』」
「保利が政局運営を考えている、収拾策は二つある。一つは10月の公選までこのまま進み、公選の直前、佐藤が突然引退して福田を立てることだ。これで反福田の勢力を粉砕するという構えだ。
他の案は佐藤がそのまま四選し、幹事長と官房長官を交換する。このあと適当な時期に福田に譲るという案だ。
『どうせたいした知恵は出ない。福田はせいぜい百票しかない。だがどちらにせよ足元が大切だ、しっかり固めよう』田中はこういった」
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半年ほどして、前尾、丹羽喬四郎、大平、鈴木の四人が相談して、次期公選には前尾を立てることが決まった。
昭和45年7月末、私が宏池会の下村勉強会に出ていたら、大平が私を別室に呼んで、つぎのように話してくれた。
「おれは宏池会の全員を握った、落ちこぼれは三、四名だ。若手はおれに『ハッキリしろ』といっている。前尾の周辺も、前尾に対し『公選への立候補はやめよ』と進言している、これが一つだ」
「もう一つは田中角栄の話だ。田中と会ったらこういった。『佐藤は後手、後手をふんで、何をやっているのか判らん、どうしようもないところへきている。政局は完全に硬直状態だ。おれの決意如何でどうでも動く』」
「保利が政局運営を考えている、収拾策は二つある。一つは10月の公選までこのまま進み、公選の直前、佐藤が突然引退して福田を立てることだ。これで反福田の勢力を粉砕するという構えだ。
他の案は佐藤がそのまま四選し、幹事長と官房長官を交換する。このあと適当な時期に福田に譲るという案だ。
『どうせたいした知恵は出ない。福田はせいぜい百票しかない。だがどちらにせよ足元が大切だ、しっかり固めよう』田中はこういった」
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大平は満足げに、話を続けて私にこう語った。
「田中は既定方針どおり着々と手を打っている。おれも田中に合わせて宏池会を固めたぞ」
大平はそういいたいのだな、と私は思った。
それでは前尾の立候補はどういうことになるのか。若手の大平系代議士が「ハッキリしろ」というのは「大平はなぜ立候補に踏み切らないのか、いつまで前尾という帽子をかぶっているつもりか」と大平にハッパをかけたことになる。
いまから考えると、大平も田中も「佐藤の五選はない、沖縄が返還される昭和47年が勝負の年だ。おれは佐藤を、おまえは前尾を一日も早く脱皮しろよ」という肚であったことがはっきりする。
「決戦まであと二年だ」。この二人のニューリーダーはまなじりを決して、立ち上がろうとしていたのだ。それにしても田中角栄の見通しは的確を極めていた。
歴史は田中角栄のいったもう一つの案通りに進んでゆくことになる。当時の私は、田中の本当の政敵は佐藤栄作だから、福田、田中、大平の三人の中で田中が一番手こずるだろう、そう簡単に先には立てまい、とみていた。
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大平は満足げに、話を続けて私にこう語った。
「田中は既定方針どおり着々と手を打っている。おれも田中に合わせて宏池会を固めたぞ」
大平はそういいたいのだな、と私は思った。
それでは前尾の立候補はどういうことになるのか。若手の大平系代議士が「ハッキリしろ」というのは「大平はなぜ立候補に踏み切らないのか、いつまで前尾という帽子をかぶっているつもりか」と大平にハッパをかけたことになる。
いまから考えると、大平も田中も「佐藤の五選はない、沖縄が返還される昭和47年が勝負の年だ。おれは佐藤を、おまえは前尾を一日も早く脱皮しろよ」という肚であったことがはっきりする。
「決戦まであと二年だ」。この二人のニューリーダーはまなじりを決して、立ち上がろうとしていたのだ。それにしても田中角栄の見通しは的確を極めていた。
歴史は田中角栄のいったもう一つの案通りに進んでゆくことになる。当時の私は、田中の本当の政敵は佐藤栄作だから、福田、田中、大平の三人の中で田中が一番手こずるだろう、そう簡単に先には立てまい、とみていた。
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それまで、じっと沈黙をまもっていたのが、副総裁の川島正次郎であった。といっても、政局を成り行きまかせにしておこう― というのではなかった。
川島の胸のおくそこには、1月の内閣改造、党役員改選の際のにがい記憶が、はっきりと刻印されていた。
― 福田赳夫、保利茂たちが組んで、自分を副総裁からたな上げし、田中を幹事長から外そうとはかった。それに、佐藤首相までもが賛成して、乗ろうとした。
そのことを思い出すたびに、いまなお川島の胸には
― こしゃくな。
という思いが、ふつふつとたぎってくるのだ。
― なんとしても、福田君の政権などはつくらせん。
そんな信念も凝結している。
― こんどは、連中に、勝手な真似はさせない。こちらが、政局のヘゲモニーをにぎって、一泡吹かせてみせる。
川島はひそかに、そのタイミングをうかがい、方法を思案していたのである。
この8月で、川島は満80歳になっていた。川島の誕生日は、派のなかで、ささやかにお祝いをされた。副総裁だからといって、大ぎょうなことはしなかった。
だから、佐藤首相も、保利官房長官も、川島の誕生日に気づかなかった。ある日、官邸の記者会見で、一人の記者から
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それまで、じっと沈黙をまもっていたのが、副総裁の川島正次郎であった。といっても、政局を成り行きまかせにしておこう― というのではなかった。
川島の胸のおくそこには、1月の内閣改造、党役員改選の際のにがい記憶が、はっきりと刻印されていた。
― 福田赳夫、保利茂たちが組んで、自分を副総裁からたな上げし、田中を幹事長から外そうとはかった。それに、佐藤首相までもが賛成して、乗ろうとした。
そのことを思い出すたびに、いまなお川島の胸には
― こしゃくな。
という思いが、ふつふつとたぎってくるのだ。
― なんとしても、福田君の政権などはつくらせん。
そんな信念も凝結している。
― こんどは、連中に、勝手な真似はさせない。こちらが、政局のヘゲモニーをにぎって、一泡吹かせてみせる。
川島はひそかに、そのタイミングをうかがい、方法を思案していたのである。
この8月で、川島は満80歳になっていた。川島の誕生日は、派のなかで、ささやかにお祝いをされた。副総裁だからといって、大ぎょうなことはしなかった。
だから、佐藤首相も、保利官房長官も、川島の誕生日に気づかなかった。ある日、官邸の記者会見で、一人の記者から
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「川島さんが80歳の誕生日を迎えたようですが、なにもしないのですか?」と訊かれたとき、保利は、はっとなった。
慌てて保利は、交友クラブにいた川島に電話をかけた。
「副総裁、水臭いですたい」と、保利は佐賀弁を丸出しにした。
「ひとこと、言って下されば、総理をはじめ、私たちでお祝いしましたのに」
「いや、有り難う」といってから、川島は例によって
「長生きのためには、なにもせんほうがいいんでね。おかまいなく」と答えた。
― いまさら、佐藤たち……岸、福田、保利たちに祝ってもらわんほうがいい。お祝いを口実に、情にからんで『佐藤のあとは福田にしたい。よろしく』などといわれては、阿呆らしい。
もっとも川島は、福田後継反対ではあっても、それを露骨には口にしなかった。かつて大野伴睦が副総裁だったころ、反佐藤感情をむき出しにして
「おれの眼の黒いうちは、栄作には天下を渡さん」
といったことがあるが、そうした言動は川島のとらないところである。
自らほとけの正次郎というように、みたところ円満、柔和である。だからこそ「おとぼけ正次郎」と、人はいうのだった。どちらにしても、やはりそのしんは「剃刀正次郎」であった。
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