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【ペン専用】SUPERNOVA(旧 超新星)★62
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ほどほどに
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防衛庁長官だった中曽根康弘は、川島副総裁からの電話を、六本木にある庁舎の長官室で受け取った。川島は気さくに、中曽根に呼びかけてきた。
「君とぼくと、船田君と三人、議長公邸で君に会いたいんだが……できれば、明日あたりがいい。君は何時ごろが都合がいいのかね。その時間に合わせよう……」
副総裁、長老であることを嵩にきない、くだけたもののいい方である。そういわれて、政治家としてはまだまだ若い中曽根は恐縮した。
「午後2時……に、おうかがいします」と答えて、電話を切った。
二人の長老が会いたいという話の件は、いうまでもなく政局の問題― 佐藤首相の四選であることは、わかりきっている。
― 川島、船田が、自分に対して佐藤四選支持を求めてくるのだ。
中曽根は長官室の大きなデスクを前に、肘掛け椅子の背に身をもたせかけながら考え込んだ。
もっとも中曽根みずからの決心はだいぶ前から決まっていた。「佐藤四選を支持する」というのだった。佐藤首相が反主流派だった中曽根を、さきには運輸相、いまの内閣では防衛庁長官にすえたばかりでなく、中曽根派の山中貞則を総務長官に起用、主流派扱いをしてくれていることは、たしかであった。
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防衛庁長官だった中曽根康弘は、川島副総裁からの電話を、六本木にある庁舎の長官室で受け取った。川島は気さくに、中曽根に呼びかけてきた。
「君とぼくと、船田君と三人、議長公邸で君に会いたいんだが……できれば、明日あたりがいい。君は何時ごろが都合がいいのかね。その時間に合わせよう……」
副総裁、長老であることを嵩にきない、くだけたもののいい方である。そういわれて、政治家としてはまだまだ若い中曽根は恐縮した。
「午後2時……に、おうかがいします」と答えて、電話を切った。
二人の長老が会いたいという話の件は、いうまでもなく政局の問題― 佐藤首相の四選であることは、わかりきっている。
― 川島、船田が、自分に対して佐藤四選支持を求めてくるのだ。
中曽根は長官室の大きなデスクを前に、肘掛け椅子の背に身をもたせかけながら考え込んだ。
もっとも中曽根みずからの決心はだいぶ前から決まっていた。「佐藤四選を支持する」というのだった。佐藤首相が反主流派だった中曽根を、さきには運輸相、いまの内閣では防衛庁長官にすえたばかりでなく、中曽根派の山中貞則を総務長官に起用、主流派扱いをしてくれていることは、たしかであった。
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それに報いるために佐藤四選を支持するという事情もないではないが、そんな単純なことから中曽根は四選支持に踏み切っているわけではなかった。
― 主流派でいることが、派の維持、発展には必要なのだ。
そういう思いからであった。
反主流派では、ポストの獲得にしても、政治資金の収集にしても、思うにまかせなくなるのが政界の現実である。
― 主流派たることが必要だ。
そう中曽根は割り切っている。
― このさいは、川島、船田たちと同調して、佐藤四選に力を貸すことだ。それが百年の大計の基礎になる……。
それにもうひとつ、中曽根が佐藤四選を支持するについては意地と執念があった。
― ここで佐藤が三期引退となって福田赳夫の後継政権ができたら、おれの政治家としての名分が立たなくなる……。
というのが、それであった。
中曽根と福田とは、昭和27年の総選挙以来、同じ群馬県第三区の選挙区で、ライバルとして闘い続けてきている。選挙のたびごとに最高点争いを演じているのだ。ともに善きにつけ、悪しきにつけ
― いずれは、おれが総理総裁。
という野心を、お互いが燃えさからせているからであった。
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それに報いるために佐藤四選を支持するという事情もないではないが、そんな単純なことから中曽根は四選支持に踏み切っているわけではなかった。
― 主流派でいることが、派の維持、発展には必要なのだ。
そういう思いからであった。
反主流派では、ポストの獲得にしても、政治資金の収集にしても、思うにまかせなくなるのが政界の現実である。
― 主流派たることが必要だ。
そう中曽根は割り切っている。
― このさいは、川島、船田たちと同調して、佐藤四選に力を貸すことだ。それが百年の大計の基礎になる……。
それにもうひとつ、中曽根が佐藤四選を支持するについては意地と執念があった。
― ここで佐藤が三期引退となって福田赳夫の後継政権ができたら、おれの政治家としての名分が立たなくなる……。
というのが、それであった。
中曽根と福田とは、昭和27年の総選挙以来、同じ群馬県第三区の選挙区で、ライバルとして闘い続けてきている。選挙のたびごとに最高点争いを演じているのだ。ともに善きにつけ、悪しきにつけ
― いずれは、おれが総理総裁。
という野心を、お互いが燃えさからせているからであった。
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そんな経緯の上から、中曽根は福田後継には反対せざるを得ないのだ。
それと、中曽根は
― 佐藤首相のあとに、そのミニチュア的な福田政権ができたのでは、政治に新しい局面はひらけない。
という考え方をもっていた。
つまり中曽根も、当面福田政権の誕生を阻止するという意識から、佐藤四選賛成という決心をかためたのである。
その夜、中曽根は、自派の代貸しの野田武夫に、このことをはかった。
派の行き方については、中曽根も野田に無断で決めるわけにはいかない。
川島、船田の申し入れの件を伝えて
「佐藤四選を支持しようと思う……」と、中曽根はいった。
心情的には、野田は福田に近いものがあったが、
― いま無理押ししても、とても福田政権の目はない。
と、看てとっていた。
「このさいは、わが派としても、それが賢明でしょうな。派内は、私がとりまとめることにしましょう……」
野田は、そう答えた。
ちょうどそのころ、中曽根は防衛庁長官として渡米する直前であった。レアード国防長官との会談が目的であった。もっともレアードは、その5月に日本にきている。それはアメリカが、日本の防衛政策になにがしかの疑念をいだいたからであった。
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そんな経緯の上から、中曽根は福田後継には反対せざるを得ないのだ。
それと、中曽根は
― 佐藤首相のあとに、そのミニチュア的な福田政権ができたのでは、政治に新しい局面はひらけない。
という考え方をもっていた。
つまり中曽根も、当面福田政権の誕生を阻止するという意識から、佐藤四選賛成という決心をかためたのである。
その夜、中曽根は、自派の代貸しの野田武夫に、このことをはかった。
派の行き方については、中曽根も野田に無断で決めるわけにはいかない。
川島、船田の申し入れの件を伝えて
「佐藤四選を支持しようと思う……」と、中曽根はいった。
心情的には、野田は福田に近いものがあったが、
― いま無理押ししても、とても福田政権の目はない。
と、看てとっていた。
「このさいは、わが派としても、それが賢明でしょうな。派内は、私がとりまとめることにしましょう……」
野田は、そう答えた。
ちょうどそのころ、中曽根は防衛庁長官として渡米する直前であった。レアード国防長官との会談が目的であった。もっともレアードは、その5月に日本にきている。それはアメリカが、日本の防衛政策になにがしかの疑念をいだいたからであった。
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